夏目漱石「それから」(第八回)二の四
両人(ふたり)は酔って、戸外(おもて)へ出た。酒の勢(いきおい)で変な議論をしたものだから、肝心の一身上の話はまだ少しも発展せずにいる。
「少し歩かないか」と代助が誘った。平岡も口ほど忙がしくはないと見えて、生返事をしながら、一所に歩(ほ)を運んで来た。通を曲って横町へ出て、なるべく、話のし好(い)い閑(しずか)な場所を選んで行くうちに、何時か緒口(いとくち)が付いて、思うあたりへ談柄(だんぺい)が落ちた。
平岡のいう所によると、赴任…
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