夏目漱石「それから」(第二回)一の二

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 約三十分の後(のち)彼は食卓に就いた。熱い紅茶を啜(すす)りながら焼(やき)麵麭(パン)に牛酪(バタ)を付けていると、門野(かどの)という書生が座敷から新聞を畳(たた)んで持って来た。四つ折りにしたのを座布団(ざぶとん)の傍(わき)へ置きながら、

 「先生、大変な事が始まりましたな」と仰山(ぎょうさん)な声で話しかけた。この書生は代助を捕(つら)まえては、先生先生と敬語を使う。代助も、はじめ一、二度は苦笑して抗議を申し込んだが、えへへへ、だって先生と、すぐ先生にしてしまうので、やむをえずそのままにして置いたのが、いつか習慣になって、今では、この男に限って、平気に先生として通している。実際書生が代助のような主人を呼ぶには、先生以外に別段適当な名称がないということを、書生を置いて見て、代助も始めて悟ったのである。

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 「学校騒動の事じゃないか」…

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