夏目漱石「三四郎」(第八十二回)八の八
三四郎はまた隠袋(かくし)へ手を入れた。銀行の通帳(かよいちょう)と印形(いんぎょう)を出して、女に渡した。金は帳面の間に挟(はさ)んで置いたはずである。しかるに女が、
「御金は」といった。見ると、間にはない。三四郎はまた衣囊(ポッケット)を探(さぐ)った。中から手摺(てずれ)のした札(さつ)を攫(つか)み出した。女は手を出さない。
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「預かって置いて頂戴(ちょ…
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