「保育の質は譲れない一線」 世田谷区長インタビュー
待機児童が1109人と昨年から225人増え、2年連続で全国最多となった東京都世田谷区。減らせないのはなぜか? 保坂展人区長に聞きました。
――この状況をどのように受け止めていますか。
保坂 昨年よりいかに減らすかに取り組んできましたが、逆に増えてしまった。申し訳ないですし残念です。
認可保育所の新設などで1500人分の定員を増やす計画でしたが、昨年は建設資材や工事の人手不足で、開園が遅れた影響がありました。一番大きな理由は子どもの人口増加です。5歳以下の子どもが毎年1千人増えています。ですから、待機児童解消のための目標数値に加えて、これから増える子どもたちのことも考えなければなりません。
――どのようなケースを待機児童とカウントするかは自治体にゆだねられている側面があります。どう考えていますか。
保坂 メートル法と尺貫法という、まったく違う尺度で出した数字が混在している状況です。世田谷区は「ワースト1」で、保育需要にこたえられていないことは事実なので仕方がないと思いますが、ほかの自治体も、仮に世田谷区と同じカウント方法をとったなら、どうなっていたか。いま、「待機児童ゼロ」と発表する政令指定市なども続々と出てきていますが、子どもを保育所にあずけられないから育児休業を延長したり、就職できないままだったりするケースを待機児童に含めないところもあります。これを加えれば、待機児童の数は大きく膨らみます。
カウントの仕方を変えると大きく数が減る、という誘惑にかられるのもわからなくもないです。ただ、やはり百人、千人単位で待機児童が減ったとなると、普通は、状況が良くなったんだと誤解しますよね。それは、今までカウントしてきた「育休中」とか「育休延長」「求職中」の方を待機児童からはずしただけで、数字のトリックにすぎないと考えます。世田谷区はきちんと入れています。
昨年5月に厚生労働省に行って、「(待機児童の数え方が自治体によって違うことは)親を惑わすのではないか」と伝えました。発表された待機児童の少ないところに引っ越し先を決めた人もたくさんいます。発表するとき、例えば、このようにカウントした算出方法だと、実態がきちんとわかるようにするべきだと思います。
――カウント方式を変えるとどれくらいになるという試算はありますか。
保坂 昨年度の世田谷区の待機児童は884人だったんです。これを「待機児童ゼロ」と打ち出した他の自治体の方式にあてはめてみると、400人になります。
400人と発表すればこのような取材もないわけですが、政令指定市は右へならえで、急にゼロになった都市が増えました。「ゼロになりました、一方世田谷区は千人で」とあまりにも単純素朴にそのまま報じているメディアが多い。そうすると、よほど何もしていないように思われますが、数字が少なくなるように定義を変えることはやってはいけないと思います。
保育を本当に必要としている人というのは、潜在需要者も含めているわけで、その需要を把握することが重要です。その需要がある、ということがないと予算措置や事業として進める理由がなくなります。
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