夏目漱石「三四郎」(第七回)一の七

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 その男の説によると、桃は果物のうちで一番仙人めいている。何だか馬鹿見たような味がする。第一核子(たね)の恰好(かっこう)が無器用だ。かつ穴だらけで大変面白く出来上っているという。三四郎は始めて聞く説だが、随分詰(つま)らない事をいう人だと思った。

 次にその男がこんな事をいい出した。子規(しき)は果物が大変好きだった。かついくらでも食える男だった。ある時大きな樽柿(たるがき)を十六食った事がある。それで何ともなかった。自分などはとても子規の真似は出来ない。――三四郎は笑って聞いていた。けれども子規の話だけには興味があるような気がした。もう少し子規の事でも話そうかと思っていると、

 「どうも好(すき)なものに…

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