【解説】


 男女の未婚率は増える一方ですが、出会いの場を提供する婚活パーティーやインターネットで希望の条件を検索できるマッチングサービスなども盛んに利用されているといいます。一方、少子化に悩む自治体が「お見合い事業」に乗り出す例も各地であり、紙面でも紹介されています。

 恋愛結婚より見合い結婚が圧倒的に多かったとされる戦前にも自治体が出会いを後押しする例がありました。今回紹介するのは東京市(現・東京都区部)が公営としては全国初の結婚相談所を開設するという1932(昭和7)年7月19日付の記事です。

 今の校閲記者の視点から、記事を点検してみましょう。見出しにある「月下氷人」は中国の故事からきた言葉で、「げっかひょうじん」と読みます。「月下」は月下老人を略したもので、縁結びの神様のことです。「氷人」は氷の上で氷の下にいる人と話をする夢を見たため、その夢について占ってもらうと「結婚の手助けをする前触れだろう」といわれ、それが後に実現したことから仲人を意味します。両方をあわせて、男女の間に入り、結婚の手助けをする人を指します。

 風流な感じもしますが、中国の故事などに詳しくないと一読してわからないかもしれません。「仲人役」など違う表現にならないかと提案してみます。「無産階級」とありますが、もともとは生産手段(資本)を持たない賃金労働者、サラリーマンのこと。今ではあまり使わない言葉なので、「裕福ではないサラリーマン」などにしてはと提案してみましょう。最後の段落の「少くない」は今なら「少なくない」とします。「少くない」だと「すくなくない」「すくない」のどちらとも読めてしまいます。末尾の「期待してる」も「期待している(してゐる)」。最近、特に話し言葉では「い」を省くことが増えましたが、この時代では珍しいので脱字でしょうか。

原文どおりに表記することを原則としますが、読みやすさの観点から

・漢字の旧字体は新字体に
・句点(。)を補った方がよいと思われる部分には1字分のスペース
・当時大文字の「ゃ」「ゅ」「っ」等の拗音(ようおん)、促音は小文字に

等の手を加えています。ご了承ください

菅野 尚(すがの・なおし)

東京都出身、バブル末期の1991年入社。大阪を中心に西日本を回る。釣りやダイビングに目覚め、魚の生態観察に癒やされる。最近はスポーツジムで泡風呂にひたり、その後はビールの泡におぼれる日々を送る。