【解説】


 出だしの視聴率が好調と報じられた、今年のNHK大河ドラマ「真田丸」。戦国時代のヒーロー・真田幸村(本名・信繁)を三谷幸喜さんの脚本で、となると人気者の共演、期待が高まります。2010年から毎年大河ドラマ関連の話を取り上げてきた「昔の新聞点検隊」でも早速、幸村にちなんだ記事を探してみました。

 幸村といえば、大坂の陣(1614、15年)で劣勢の豊臣方にいながら、攻め寄せる徳川方を苦しめ、家康にあと一歩まで迫ったとされる大活躍がよく知られています。その時幸村が「毒ガス」で勝利を得たという、なんともあやしげな見出しの記事が、1935(昭和10)年の子ども向けのコーナーに載っていました。どういうことでしょうか。

 80年ほど前の記事ですが、子ども向けなので読みやすいですね。幸村がアカクラゲというクラゲを大量に捕獲して乾燥させ、粉にしたものを、風上から徳川方に向けて振りまいたところ、徳川の兵たちはくしゃみを連発。その隙を狙って攻め寄せ、勝利を得たという内容です。だからアカクラゲのことを別名「サナダクラゲ」と言うのだとか。

 百科事典を開いたところ、確かにアカクラゲの俗称として「サナダクラゲ」が載っており、幸村が大坂の陣で粉を用いた故事にちなむ、との解説がありました。意外なところで真田の名が使われていたのですね。

 それにしても、粉なのですから、気体である「毒ガス」にたとえるのは言い過ぎなような気もします。本文ではまだ「同じようなもの」とぼかしていますが、見出しははっきりと「毒ガス」とうたっています。良い代案とは言いがたいですが、せめて「?」をつけるなどして、断言を避けたいところです。ついでに、「名高い名将」と、意味が重複している表現も直してもらいましょう。

 本文の最後は、「毒ガス」攻撃が江戸時代にすでにあったことを「何となく愉快」と締めています。戦争の影が忍び寄りつつある時代の世相が表れているのでしょうか。現在、毒ガスは化学兵器禁止条約により、世界的に厳しく使用や製造、保有が禁じられています。非人道的な攻撃ですので、現在なら冗談でも「愉快」とは表現しないでしょう。

 ところでこのアカクラゲ(写真1)、他にハクションクラゲなどとも呼ばれているそうです。本当にくしゃみを誘うような効力があるのでしょうか。アカクラゲのくしゃみ成分について調べている慶応大理工学部の犀川(さいかわ)陽子准教授(天然物化学)にお話をうかがうことができました。

原文どおりに表記することを原則としますが、読みやすさの観点から

・漢字の旧字体は新字体に
・句点(。)を補った方がよいと思われる部分には1字分のスペース
・当時大文字の「ゃ」「ゅ」「っ」等の拗音(ようおん)、促音は小文字に

等の手を加えています。ご了承ください

広瀬 集(ひろせ・しゅう)

熊本県出身。就職氷河期世代。非正規の職を転々とした後、2006年にようやく入社。3年半の大阪本社勤務を経て、13年東京本社に復帰。ことばマガジン「昔の新聞点検隊」の言い出しっぺ。関心のある歴史ものやスポーツものを、同コーナーを中心に執筆中。