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1934(昭和9)年2月24日付東京朝日朝刊11面。主な直しだけ朱を書き入れています。現在の朝日新聞の表記基準で認めていない漢字の音訓や、当時は入れていなかった句点を入れる等については、原則として記入を省いています。記事を文字起こしした【当時の記事】が【解説】の後ろにあります

【解説】

 朝日新聞社のすぐ隣にある築地卸売市場(東京都中央区)。都内11カ所の中央卸売市場で最も古く、特に水産物の取扱量は世界最大級と言われています。早朝はいつも、買い付けのトラックが市場に次々と入り、市場内では3輪の小型運搬自動車「ターレ」が行き交います。市場外では買い物や築地の味を楽しむ人たち、外国人観光客らでにぎわっています。

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朝日新聞東京本社のビルから見る築地市場

 しかし、その光景もあと1年ほどで見られなくなってしまいます。築地市場は2016年11月に豊洲(東京都江東区)に移転することが決まっています。

 築地市場の開場は1935(昭和10)年2月11日。今回は、その直前の34年2月の記事を取り上げます。東京市(現在の東京都の区部に相当)と業者の間で移転に関する問題が解決せず、せっかく市場は完成したのに空き家のままになっている様子などを伝えています。

 記事を今の校閲記者の視点から点検してみましょう。

 まず、見出しの「ガラン洞」ですが、今なら記事に合わせて「ガランどう」とするでしょう。手元のいくつかの辞書をみても「がらんどう」と「どう」は平仮名になっています。日本国語大辞典には「語源説」として「ガラト(空所)の読」「内に物が無くて広いところからガランドウ(伽藍堂)の意」「カラ(殻)堂を訛って濁呼したもの」などが紹介されています。「洞」の字を使うのは著しい当て字と言えそうです。

原文どおりに表記することを原則としますが、読みやすさの観点から

・漢字の旧字体は新字体に
・句点(。)を補った方がよいと思われる部分には1字分のスペース
・当時大文字の「ゃ」「ゅ」「っ」等の拗音(ようおん)、促音は小文字に

等の手を加えています。ご了承ください

上田 孝嗣(うえだ・たかつぐ)

1966年生まれ、福岡県出身。91年入社、東京本社校閲部、仙台、函館支局、東京本社地域面編集などを経て2012年から校閲センター。食と酒の美味探求とスキューバダイビング、旅好きなアラフィフ。共著に「パイプ大全」。