【解説】


 早いものでもう今年も後半、7月に入りました。前回に続いて、「天皇の料理番」秋山徳蔵に関する記事を取り上げますが、今回は夏にぴったりの涼しげな話題です。徳蔵が「氷の彫刻」に取り組んでいる様子を報じています。

 まずざっと点検しましょう。徳蔵の取り組みは、「これまで全く日本の料理界で試みられなかった」とあります。校閲記者としては不安になってしまう表現です。というのも、「初の○○」「これまでなかった」などの文言を見ると、本当に初めてなのか気になってしまうからです。

 日常の紙面点検では締め切りまでの限られた時間の中で点検しているので確認しきれないこともありますが、今回はNPO法人「日本氷彫刻会」にお尋ねすることができました。「会歴」に掲載されている氷彫刻の略史によると「日本における西洋料理の分野で、氷細工を初めて伝えたのは岩堀房吉」とありました。房吉は徳蔵と同じ1888(明治21)年の生まれ。主に財閥・三井家で腕を振るい、「官の秋山、民の岩堀」とも称されたという名料理人です。ロシアでの修業時代に氷細工の存在を知り、日本に伝えたとされていました。

原文どおりに表記することを原則としますが、読みやすさの観点から

・漢字の旧字体は新字体に
・句点(。)を補った方がよいと思われる部分には1字分のスペース
・当時大文字の「ゃ」「ゅ」「っ」等の拗音(ようおん)、促音は小文字に

等の手を加えています。ご了承ください

広瀬 集(ひろせ・しゅう)

熊本県出身。就職氷河期世代。非正規の職を転々とした後、2006年にようやく入社。3年半の大阪本社勤務を経て、13年東京本社に復帰。ことばマガジン「昔の新聞点検隊」の言い出しっぺ。関心のある歴史ものやスポーツものを、同コーナーを中心に執筆中。