「麸」や「靭」を大阪本社だけが用意していたのはなぜ? 「畩」になじみがあるのはどの地域の人?――

 昭和30年代に朝日新聞の4本社が、全国共通で整備する字とは別に、それぞれで活字を保有していた「ローカル字」。前々回は東京本社と中部(名古屋)本社のローカル字を、そして前回は大阪本社のローカル字を途中まで紹介しました。今回は大阪の残りと、西部本社です。

 社内資料「統一基準漢字明朝書体帳」第3版(1960年)の巻末にあるローカル字の一覧(前々回の画像を参照)を見ると、東京と中部に比べ、大阪や西部はその倍ほどもローカル字が並んでいます。やはり管内の地名が中心ですが、細かく見ていくと、自治体レベルに限らず、紙面に必要な字をより丁寧に拾っている印象を受けます。

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 では、大阪本社のローカル字の続きを見ていきましょう。下の表をご覧ください。番号は説明のために便宜的に振ったもので、東京・中部両本社と重複している字は省いています。

写真・図版

 

 36は、「祁」のへんを「ネ」の形にした拡張新字体。当時、朝日新聞では表外漢字も当用漢字にならった略字を使っていましたが、現在は「示」の形にしています。
 この字は表の●印でおわかりのように、大阪と西部の2本社でローカル字として保有していました。それぞれ、奈良県山辺郡「都祁村(つげむら)」、鹿児島県薩摩郡「祁答院町(けどういんちょう)」という自治体の表記に必要でした。
 都祁村は、書体帳の最初の版の前年である1955年に2村合併により誕生し、2005年に奈良市に編入されました。一方の祁答院町も、やはり1955年に3村の合併で誕生し、2004年に合併で薩摩川内市の一部となりました。どちらも、自治体としては「昭和の大合併から平成の大合併まで」存在していたわけです。

比留間 直和(ひるま・なおかず)

1969年生まれ。学生時代は中国文学を専攻。1993年に校閲記者として入社し、主に用字用語を担当。自社の表外漢字字体変更(2007年1月)にあたったほか、社外ではJIS漢字の策定・改正にも関わる。