8月、東京メトロ・青山一丁目駅のホームで、視覚障害者の男性が線路に転落し、電車と接触して亡くなりました。男性は盲導犬と歩いていましたが、足を踏み外したそうです。10月には、大阪の近鉄線の駅でも視覚障害者の男性が誤って線路に落ち、電車にひかれて死亡しました。どちらの駅にも、線路とホームを遮断するホームドアはありませんでした。ホームドアがあれば事故を防げたのではないか――。こんな意見が朝日新聞の投書欄「声」にたくさん寄せられました。

 ホームドアは、視覚障害者だけでなく、走り回る子どもや酔客が線路に落ちるのを防ぎ、また自殺防止にも有効と言われています。新幹線や首都圏・関西圏などのJR、地下鉄のホームに設置されています。地下鉄ホームの天井まで届く形もあれば、胸の高さまでのものもあります。

 国土交通省によると、視覚障害者がホームから転落したり列車と接触したりする事故は2009~14年度に計428件ありました。09年度は39件でしたが14年度は82件と増加傾向にあります。東京視覚障害者協会の山城完治さんは事故の理由として、人や物と接触した弾みで点字ブロックから外れて方向が分からなくなったり、逆のホームに入ってきた列車の音を自分のホームに来たと勘違いし、乗り込もうとして線路に踏み出したりすることを挙げています(8月20日付朝日新聞)。

 日本盲人会連合が11年に行ったアンケートでは、約4割が「ホームから転落したことがある」と回答しました。「方向や点字ブロックがわからなかった」のほか、「人をよけるために歩いていたら落ちてしまった」「騒音で案内の声が聞き取れなかった」などの理由が挙げられました。また必要な転落防止策として、9割が「ホームドアの設置」と答えました。

 国交省の資料によると、今年3月末時点でホームドアが設置されているのは全国で665駅。1日に10万人以上が利用する駅(251駅)で約3割、3千人以上(約3500駅)だと2割弱にとどまります。

   ホームドアの設置が進まない理由として、まず費用の問題があります。ホームの大がかりな補強や改修が必要で、営業しながら工事を進めるのが難しいことも普及の妨げになっています。また、複数の鉄道会社による相互乗り入れの影響で、同じ路線を走る列車でも1両の長さや扉の場所が異なることがあるのも、設置が遅れる理由の一つです。

梶田 育代(かじた・いくよ)

2001年大阪校閲部入社、鳥取総局、朝日学生新聞社などを経て現在、東京校閲センター。学生の頃はスポーツ新聞部に所属。野球、ハンドボール、バスケットのスコアがつけられる。大阪出身のためお笑いが大好き。東京在住の今でも、年末の「楽屋ニュース」だけは見ないと年が越せない。