同じ音を繰り返したり、言葉が出にくかったりすることで、思い通りに話せない吃音(きつおん)。多くの当事者は、会話への苦手意識を抱えています。そんななか、吃音について知ってもらおうと、あえて音声だけで表現する「ラジオ」を通して発信を続ける吃音当事者がいます。開始から1年を過ぎ、「人前で話すのが楽しくなった」と大きな変化もありました。

■当事者たちがあえて放送にチャレンジ


 「吃音ラジオ、はじまります!」

 明るい声で番組をスタートさせたのは、大学生の遠藤百合加さん(20)。小さい頃から吃音があります。

 「吃音」とは、話すときに、①「わ、わ、わたし」と繰り返したり(連発)②「わーたし」と引きのばしたり(伸発)③「…………わたし」と音が詰まって出てこなかったり(難発)することで、思い通りに話せないことをいいます。原因ははっきり分かっておらず、決定的な治療法もまだありません。3歳前後で症状が出ることが多く、7割程度は自然になくなっていきますが、大人になってからも症状に悩む人は多くいます。

 吃音者は100人に1人いると言われていますが、「その割に知られていない」と遠藤さんは感じています。吃音についてもっと知ってほしいという思いから、2014年、ツイッターを通じて集まった、会社員の広瀬功一さん(30)、音響エンジニアの青木瑞樹さん(30)とともに、吃音当事者によるインターネットラジオ番組「吃音ラジオ」を始めました。

 「自分がスムーズに話していないところを聞いてもらえれば、吃音について知ってもらえるんじゃないか。ラジオなら発信できるし、近くに住んでいない人でも参加できると思った」

 主に広瀬さんと遠藤さんが司会を、青木さんが編集・配信を行っています。第1回の放送は14年12月。収録は、インターネットの通信サービス・スカイプを使っておのおのの自宅などから参加する形で行われており、九州など遠方のゲストが加わることもあります。ゲストから体験談や悩みを聞いたり、リスナーからの相談に答えたりするほか、吃音に関するニュースの紹介も行っています。月1~2回の放送を続け、今年3月に第24回を迎えました。

 遠藤さんは、難発・連発型の吃音です。放送中、言いたい単語の最初の1音が出ず、言葉につまることもあります。そんな時は、「言えるところから言ってみる?」「代わりに言おうか」。周りから声がかかります。

 「始めた頃は、スムーズに話せる言葉に言い換えて話したりしてしまっていたけど、続けるうち、自分本来の話し方で話せるようになってきた」と遠藤さん。吃音について伝えるラジオだからこそ、自分の話し方を出すことが重要だと考えています。

 きっかけになったのはリスナーにもらったメッセージでした。「吃音ラジオなのにどもってない、と実は思います。初めて吃音に接する人にとっては、一体どこがどもっているのか、どこが困るのか分からないのではという気もする。だから遠藤さんが言葉につまるとうれしいです」

 感動した、と遠藤さんは話します。

 「今まで苦しめられてきた吃音。その吃音の状態を肯定してもらった。せっかくの吃音ラジオなんだから普通に話す必要なんてない。自分の吃音を認めてくれている言葉をきいて、こうやってラジオを作ったんだから必死で隠す必要なんてないんじゃないかと思った」。それ以来、言い換えは極力避けて、自分を出そうと心がけているといいます。

 遠藤さんとともに番組の司会をつとめる広瀬さんは「ラジオを始めたことで、自分と同じことで悩んでいる人がこんなにいるんだと知った。ツイッターやメールだけでなく、直接『聞いてるよ』と声をかけられることもある」と話します。人前で話すのは苦手でしたが、「ラジオ以外の場面でも、人前で話すことが好きになった。話す楽しさを知った」と、自身の変化を語りました。

青山 絵美(あおやま・えみ)

広島県出身。2011年に入社し、以来、東京本社校閲センター勤務。大学では、日本古典文学を学び、アメフット部で青春を燃やした。猫をこよなく愛するが、20歳を過ぎてアレルギーを発症。悲嘆の日々をおくる。