昨年9月、難民の少女をモデルにして「他人の金で。そうだ 難民しよう!」との文言を添えたイラストがフェイスブックに投稿され、難民に対する差別ではないかと議論を呼びました(毎日新聞2015年10月8日付)。その作者はすみとしこ氏の作品集「『そうだ難民しよう!』はすみとしこの世界」(青林堂)が昨年12月に出版され、12月21日、出版関係者らでつくる団体などが参議院議員会館で抗議の記者会見を開きました(朝日新聞2015年12月22日付)。

■本が出る前に声明「先手を打つべきだと考えた」

 主催した「ヘイトスピーチと排外主義に加担しない出版関係者の会」は、ヘイト本や排外主義的な言説が書店に多く並ぶことを出版業界自身の問題として考えるべきではないか、という問題意識のもとに集まった編集者や営業マン、校閲担当者、ライターらで活動しています。

 はすみ氏のイラストが議論を呼んだのは、当初はネット上が中心でしたが、出版計画があることを知った同会は昨年11月、「差別を商業主義と結びつける卑劣な行為を強く非難します」との抗議声明を出し、「人権侵害のおそれのある出版物に関しては慎重な流通が求められます」「偏見と憎悪の扇動に加担すべきではありません」と、業界団体と書店によびかけました。

 本が出る前に抗議声明を出したことについて同会事務局の岩下結さんは、「書誌情報からわかった目次などを見ても、すでにネット上で公開されているイラストがほとんどで、明らかに差別扇動的であることが予想できた。我々は差別思想の流布、宣伝を問題視しているので、この本が書店に並んだ段階で差別扇動が達成されてしまうと考え、本が出た後に批判するのでは遅い、先手を打つべきだと考えた」と説明しました。

 さらに、「表現の自由は最大限に尊重されるべきだが、野放しの自由ではない。人権侵害は許されない」「たまたまネット上で個人の表現として出てしまったということではなく、改めて紙の本に印刷し、全国の書店に配本するという出版メディアのインフラを使って排外的な思想を広める選択をした出版社の意図が問われないといけない」としました。

門田 耕作(もんだ・こうさく)

1957年、兵庫県生まれ。84年、活版時代の大阪・校閲部入社。用語幹事として「朝日新聞の用語の手引」(2015年3月刊)を編集。現在、東京で用語担当。差別・人権問題の紹介にも取り組む。日本酒と焼きそば(古里ではそば焼きと言った)が好き。