2016年4月、改正障害者雇用促進法が施行されます。企業が、障害者に対して採用や賃金などで不当に差をつけることを禁じ、障害者が職場で働くための「合理的な配慮」をおこなうことを義務づけるものです。


 「合理的な配慮」には、採用試験の際に問題用紙を点訳したり、通勤の際に混雑の時間を避けるために勤務時間を変更したりといったことが想定されています。

 施行を機に、障害者にとって働きやすい環境が整っていくことが望まれますが、一方で、働く「前」の支援に力を入れている企業もあります。今回は、そんな取り組みの一端を取材し、多様な人材が活躍できる理由を探りました。

■初めての場所で、初めての大人と

 9月29日、東京都港区の六本木ヒルズ。高層ビルの31階にあるバークレイズ証券で、特別支援学校の生徒を対象とした職場見学ツアーがおこなわれました。参加したのは、東京都内の高等部11校の17人です。

 12年に始まったツアーは、今回で4回目。バークレイズは英国を拠点とする世界有数の金融機関で、日本法人のバークレイズ証券でも、さまざまな国籍の人が働いています。掲げるのは、国籍だけでなく、信仰、性別、障害の有無、性的指向など、あらゆる多様性の尊重です。

 バークレイズ証券では現在、視覚障害や肢体不自由のある7人が、人事、経理、広報などで働いています。7人のうち4人は、パラリンピックなどで活躍するアスリートでもあります。職場見学ツアーは、7人を中心とした社内委員会「Reach Tokyo」によって企画されました。視覚障害のある森綾子さんはツアーのねらいを「特別支援学校の生徒たちは、どうしても見る世界が狭くなりがち。働いているところや会社そのものを見せる機会をつくりたい」と説明します。
 
 ツアーでは、バークレイズの歴史や仕事についての説明、障害のある社員や外国人の社員との交流、社内見学のほか、面接の練習もおこなわれました。

 「今日はここまでどうやって来たんですか?」「電車で来ました」「どのくらい時間がかかりましたか?」。生徒たちは1対1で社員と向き合い、一つずつ質問に答えます。緊張からか、少し表情が硬い生徒も。5分ほどやりとりをした後、人事部の社員からのアドバイスを受けて、2回目に挑みました。

  1回目よりは少し打ち解けた様子で、高等部1年の小野彩音さんは「初めは緊張して小さい声になってしまったけれど、コツを聞いてからは、相手の目を見てはきはき答えられた」と成果を語ります。

青山 絵美(あおやま・えみ)

広島県出身。2011年に入社し、以来、東京本社校閲センター勤務。大学では、日本古典文学を学び、アメフット部で青春を燃やした。猫をこよなく愛するが、20歳を過ぎてアレルギーを発症。悲嘆の日々をおくる。