人と違うことに挑戦し続ける若者がいます。プロ野球で「二刀流」として注目されている日本ハムの大谷翔平選手。プロ2年目の今季、投手としては前半戦終了時点で9勝(1敗)を挙げ、打者としても自身の20歳の誕生日に2本塁打を打つなど、急成長してファンを魅了しています。

 今年のオールスター戦では、2戦目に先発登板し、非公式記録ながらプロ野球最速タイとなる球速162キロをマークしました。

 春のセ・パ交流戦で、日本ハムのファンにはうれしいことがありました。本拠・札幌ドームで打席に立つ投手・大谷が見られたのです。パ・リーグはDH制を採用しており、大谷選手がマウンドに上がるときは打席に立つことがありません。交流戦でも、セ・リーグの本拠では採用していませんでしたがパ・リーグの本拠では採用していたので、やはり同様でした。しかし今年はこれを逆にするシステムが採用されたのです。

 今回は、このDH制がテーマです。どのような経緯で生まれたのか、なぜセとパで採用・不採用が分かれているのか……など、知っているようで知らないあれこれをご紹介します。

◇何の略? いつできた?

 「DH」って何の略かご存じでしょうか? 正解は「Designated Hitter」。designateは指名する、任命するといった意味で、つまり「指名された打者」ということになります。

 1973年、大リーグのア・リーグで導入されたのが始まりです。目的は、観客動員を増やすことでした。当時はいわゆる「投高打低」だったため、得点力を上げて観客を楽しませる策としてDH制が考え出されたのです。

 米国にならい、やはり人気低迷にあえいでいた日本のパ・リーグでも、75年にDH制が採用されました。影響は数字に表れ、打率は.247から.254に、投手の完投は197から302にアップ。試合時間も平均で5分の短縮につながりました。

 これに対しセ・リーグは、現在に至るまでDH制を採用していません。その理由は、同リーグのウェブサイトに掲載されています。少し長いですが、引用します。

 1. 1世紀半になろうとする野球の伝統を、あまりにも根本的にくつがえしすぎる。
 2. 投手に代打を出す時期と人選は野球戦術の中心であり、その面白みをなくしてしまう。
 3. 投手も攻撃に参加するという考え方をなくしてしまう。
 4. DH制のルールがややこしくファンに混乱をおこさせる。
 5. ベーブ・ルースやスタン・ミュージアルは投手から野手にかわって成功したのだが、そのような例がなくなる。
 6. 仕返しの恐れがないので、投手が平気でビーンボール※を投げる。
 7. いい投手は完投するので得点力は大して上がらない。
 8. 投手成績、打撃成績の比較が無意味になる。
 9. バントが少なくなり野球の醍醐味(だいごみ)がなくなる。
 ※投手が故意に打者の頭部をねらって投げる危険な球