「かぜのかた」と言う地方もあれば、「かぜねつ」と言う地方もあります。ともに同じ症状を表し、ともに同じ日本海側のお国ことば――いったい何のことでしょう。

 「風邪をひいた方?」「風邪で熱がある状態?」。初めて聞く人の多くは、そう思うのではないでしょうか。地元出身でない医療スタッフも、同じようです。「かぜのかた」と一言だけ口にした患者を風邪と思ったスタッフ、「かぜねつ」のほかに何も言わなかった患者に熱を尋ねたスタッフ、体温計を渡したスタッフがいました。そのスタッフと患者の、その後の会話はかみ合わなかったと言います。

 症状を詳しく伝えているのがこちら。「口の中に『かぜのかた』があって食事がとれない」「『かぜねつ』ができて口を開けられない」。どうやら、前の症状は口内炎、後は口角炎か口唇炎のようです。主に唇やその周りに小さな吹き出物がたくさんできて、ひりひりと痛む症状――これを富山県では「かぜのかた」、石川県と福井県北部では「かぜねつ」と言うのだそうです。

 「かぜねつ」について、石川県の医師は「風邪をひいた後や、熱が出る病気になった後に症状が現れやすい」と説明します。つまり、このときは体が弱っている状態です。北陸の人たちは、まさにこういうときに発症することを経験的に知っていた、とその医師が話します。

 昨年5月の「東海お国ことば編『お二人は若い?』」に続き、今回は北陸地方の医療スタッフと患者とのやりとりを紹介しましょう。

「おけそく」と形が似た部位

 まず、浄土真宗が盛んな土地柄ならではのことばから。

 「おけそくが痛い」と訴える患者が、富山県内の病院に来院しました。「おけそく」という聞き慣れない表現ですが、富山県民なら法事などの際によく耳にするのではないでしょうか。仏前に供える白い丸もちのことです。

 しかし、地元出身の医療スタッフは「おけそく」を知っていても、それが体のどの部位を表すのか見当さえつかず、患者に教えてもらったそうです。その部位とは「ひざ」でした。

 「おけそく」が、なぜひざを指すのでしょう。「(仏前に)供えるとき、ひざをつくから?」「(お供え物を)大切な物や部位と考えるから?」と、スタッフらは推理します。

 地元で医院を開く80代の整形外科医は「直径6センチほどのおけそくと、ひざの骨の形が似ているから」と説明します。さらに、同じ地元の60代の整形外科医は「ひざを軽く曲げたときの形が、おけそくのように見えるから」と教えます。