(9月14日付朝刊に掲載した「ことばの広場」を再録しました)

 岐阜県内の病院でのことでした。血圧を測るため腕にバンドを巻かれた患者が、病院スタッフから締め付け具合を聞かれて「きもい」と答えたそうです。

 「きもい」は「気持ち悪い」を略した若者ことばとして知られます。この患者も若者だと思われるかもしれませんが、実際は年配者でした。

 患者が口にした「きもい」は、岐阜県や愛知県の方言だったのです。「きつい」「せまく窮屈である」を表します。患者が伝えたかったのは、バンドの締め付けがきついということです。

 岐阜県の方言に詳しい岐阜大学教育学部の山田敏弘教授は「『きもい』は県内では南部で広く使われ、岐阜市でも50代以上の人は理解する」と話します。

 岐阜市を含めた県南部に住む地元の人に、日常生活のどんな場面で使うのか尋ねました。

 靴が履きにくくなった時に「靴が『きもく』なった」(50代)、洗ったセーターを着た時に「縮んだのかな? 少し『きもいわ』」(60代)。履物や衣服が小さく感じた時のほか、帯をゆとりなく締める時、座席や部屋の広さに余裕がない時などに思わず口にすると言います。