(8月3日付朝刊に掲載した「ことばの広場」の拡大版です)

 5日(日本時間6日朝)開幕するリオデジャネイロ五輪では、新たにゴルフとラグビー(7人制)が実施され、全28競技中10競技が球技となります(他に水泳の一種目として水球を実施)。これら球技の競技名、普段の新聞では卓球と水球以外は全てカタカナで書いていますが、他の競技にも漢字の名前があり、最近では漫画などの題名にも使われて注目を集めているようです。過去の五輪の資料や昔の記事から、「○球」を探してみました。

「幻の東京五輪」の手引

 今から76年前、1940年の五輪は東京で開かれる予定でした。アジア初の五輪開催となるはずでしたが、日中戦争の激化などの理由で政府が開催権を返上、そのまま中止となったのです。この幻の大会の組織委がまとめた手引書が、東京・中央区立京橋図書館に残っています。当時の国際オリンピック委員会によるルールを邦訳したと思われる「一般規定」と、40年大会で行われるはずだった「プログラム」が収められています。

 公式種目について定めているのは、「一般規定」の第5条。文学・音楽・彫刻といった「芸術競技」(48年のロンドン五輪を最後に廃止)があるなど、現在とは違う点が随所に見られます。それらに交じって「庭球」「蹴球(しゅうきゅう)」「籠球(ろうきゅう)」などの文字も並んでおり、当時これらの名前が使われていたことがわかります。

野球は庭球から生まれた

 テニスを「庭球」と呼ぶのは、ご存じの方が多いと思います。「庭」の字には小さいコートで行うという意味の他、「テ」の音を合わせる狙いもあるようです。

 この命名に注目したのが中馬庚(ちゅうま・かのえ、1870-1932)。「ベースボール」を初めて「野球」と訳すなど野球の普及につとめ、没後に野球殿堂入りした人物です。彼が書いた解説書には「明治26年4月以来(中略)野外ノ球技ナルヲ以テ庭球(ローンテニス)ニ対シテ野球ト命名セル」とあります(「ローン」は芝生のこと)。明治26(1893)年ごろには「庭球」の訳語があったことになります。