津軽海峡を越えて

 テレビはほとんど見ないがCMには関心があり、最近は某缶コーヒーのCMに興味を持った。石川さゆりと北島三郎とトミー・リー・ジョーンズが出てきて、舞台は「津軽海峡の鉄道を取り巻く人々」という、「まるで自分のために作ってくれたのではないか」と思うような内容だ。

 日常は紙面を点検するのが主となる仕事なので、さまざまな記事を読んでいるが、「北海道新幹線開業」の言葉が最近目につく。当方の周囲でも「新幹線が走るなら、北海道にも行ってこようかな」と話す知人も増えてきた。やはり新幹線は人気者だ。だが、筆者はいわゆる典型的な「古き良き時代」を愛する人間で、このCMの石川さゆりが演じる喫茶店主のように「私は連絡船のほうが好きだったわ」派だ。元鉄道作業員役の北島三郎のように「はるばるきたぜ函館へ」と歌うからには、やはり丸1日くらいかけて行くべきだ、そうでないと北海道の遠さは実感できない、と思っている。

 もっとも「命がけでトンネル掘った甲斐(かい)があったな」という台詞(せりふ)にはグッと来た。幸い青函連絡船の乗船経験があり、だからこそ、初めて「北斗星」で渡道した際、船に比べて鉄路の便利さを痛感した。青函トンネル建設の契機の一つとなった「洞爺丸事故」も知識の一つに過ぎないものの、実際、連絡船に乗ったことがあればまた思いは違ってくる。そして一度でも真冬の竜飛岬に立ち、津軽海峡越しに北海道の松前半島を眺めれば、この下にトンネルを掘ることがどれだけの困難を伴うかは具体的イメージが可能となるだろう。