(11月11日付朝刊に掲載した「ことばの広場」を再録しました)

 上司には「お疲れ様」を使うべきなのに「ご苦労様」と言う失礼な人を見かける――こんなメールが読者から届きました。私たちが普段よく使うこの二つの言葉について、社会言語学が専門の中央学院大非常勤講師・倉持益子さんに聞きました。

 昭和初期から2010年までのマナー本など200冊を材料に、使われ方の変遷を調べた倉持さんによると、70年代に「ご苦労様は部下へのねぎらい」という記述が現れ、80年代に増加。90年代には「上司にはご苦労様よりも、お疲れ様がふさわしい」となり、00年代には完全に「ご苦労様は目上には失礼だ」と変化してきたそうです。

 文化庁による05年度の「国語に関する世論調査」でも、約7割が「目上にはお疲れ様を使う」と答えています。確かに現代の常識はメールのご意見の通りなのです。

 一方で、倉持さんによると、江戸時代は上下に関係なく「ご苦労」という言葉を使っていたのだそうです。現代の辞書でも「広辞苑」は「他人の苦労を敬っていう語」とするだけで、上下関係には触れていません。