「絶滅種」「絶滅危惧種」という言葉がある。それぞれ大辞泉で引くと、「すでに絶滅したと考えられる種」および「現在生存している個体数が減少しており、絶滅の恐れの極めて高い野生生物の種」とある。環境省によると、絶滅(たとえばニホンオオカミ)や野生絶滅(たとえばトキ)、絶滅危惧(Ⅰ~Ⅱ)類(たとえばイリオモテヤマネコ)、準絶滅危惧などのランクがある。

 「絶滅」や「絶滅危惧」であるものは動植物とは限らない。人が作り出したものも時代とともに生まれては消えていく。機器の生産がほぼ終了したミニディスク(MD)は絶滅危惧Ⅰ類。テレビのアナログ放送は日本では野生絶滅だろうか。

 鉄道の中でも時代と共に変化し生まれては消えていくものがある。官営鉄道が鉄道省~国鉄~JRと変わってゆく中で、かつて宅配便がない時代に個人の荷物を運んだサービスは消え、それに伴って「荷物車」と言われる車両は絶滅してしまった(車両は残存するものの、本来の仕事がない)。貨車と呼ばれる車両もほぼコンテナに代わってしまった。列車の種別でも、私鉄では今も走っている「準急」は50年ほど前に絶滅している。3月の定期運行終了後も臨時列車として走っている「北斗星・ブルートレイン」は野生絶滅だろうか。

 「機関車牽引(けんいん)」「客車」「夜行」「急行」「寝台車」「座席車」という、希少性を示すキーワードが並ぶ絶滅危惧Ⅰ類の列車がある。青森-札幌間を結ぶ「夜行急行・はまなす」。青森では新幹線と青函(青森-函館間)連絡の役割を担い、南千歳では新千歳空港へのアクセスの任を担う。生まれはJR化後の1988年だが、使用している車両は国鉄から受け継いだ客車(やはり絶滅危惧Ⅰ類)。2002年に廃止された「快速・海峡」にも使われていたため、青函連絡船にあった2等桟敷(さじき)席を模したカーペット敷きの車両も付いている。列車の性格からも古き国鉄時代の名残をとどめている。

 夜行急行は様々なニーズに応えるべく、座席車や寝台車をつなげてきた。寝台車では1人個室こそないもののA寝台から3段式B寝台(形状から「カイコ棚」と呼ばれた)まで、座席車では背もたれがリクライニングするグリーン車から向かい合わせの4人掛けクロスシートまで多様だ。「はまなす」以外では2012年3月まで定期運行していた夜行急行「きたぐに」が、元々昼夜兼用として設計された寝台電車の特性を生かし、A寝台からクロスシートの座席まで用意していた。

 国鉄時代には数多くの急行が大都市と地方都市を結んでいた。昼間の急行は途中の町々の地域輸送も担ってきた。一方、夜行の急行は比較的安い料金で、大都市と地方都市などを結ぶ。寝台特急はどちらかというと今の夜行バスのような性格で、深夜帯(午前1時~3時ぐらい)は旅客の乗り降り(客扱い)はほぼせず、朝方から客扱いを開始する。その点夜行急行は、停車駅こそ昼間の特急並みに少ないものの深夜帯も客扱いをして利便をはかってきた。はまなすもそれほど多くはないが、深夜帯に客扱いしている。

 現在、定期の夜行列車は、サンライズ出雲・瀬戸とはまなすのみであり、季節運転の列車も、東京-大垣(岐阜県)間の「ムーンライトながら」や新宿-白馬(長野県)間の「ムーンライト信州」など片手で数えられるまでになってしまった。定期運行を終了し臨時化されていた「寝台特急・あけぼの」や「夜行急行・能登」はすでになく、昼間の急行は2009年に全廃された。

 はまなすは、国鉄時代の雰囲気を残している。ホームに行けばそこにいつもあるような存在感。これから目的地へと、夜間に座席で移動するけだるさ。床下で唸(うな)る発電機の音。発車時に聞こえる機関車の汽笛。音もなく動き出す列車。深夜の停車駅での静寂。夜間に減光された車内から外を眺めると、国道を走るトラックや踏切が車窓を流れ去っていく。冬場は雪で走行音がくぐもる。それらすべてが絶滅危惧である。