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カオスの深淵 立ちすくむ税金

立ちすくむ税金
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立ちすくむ税金

(左)勝山市は繊維産業で栄えた。その歴史を学べる「はたや記念館ゆめおーれ勝山」。糸繰り機などが展示されている
(中)越前大仏の門前町の奥にそびえる五重塔。市が差し押さえたままだ
(右)高さが17メートルと日本一の「越前大仏」。宗教法人に寄付されたため、市の差し押さえは受けていない=いずれも福井県勝山市、多田敏男撮影

徴収できない現実

 税金の取り立てを優しくする。それは、市民の暮らしの崩壊を防ぐためか、あるいはご機嫌とりか。
 前橋市の山本龍市長(53)は初挑戦となった今年2月の市長選で、マニフェストにこう記した。
 「やめる/市税滞納者に対する問答無用の差し押さえ」
 当選後の訓示でも強調した。
 「高齢者からの取り立てはもう少し優しく。年金や、生命保険の解約につながるような差し押さえはしない」。結果として「徴収率が落ちてもかまわない」とまで言い切った。
 市長の発言には背景がある。
 8年前、市では税金滞納が問題になっていた。本来納められるべき税収約600億円に対して、滞納額は100億円を超えた。
 「公平性が保てない」。当時の高木政夫市長(62)は対策に乗り出した。戸別訪問や催告書に反応がなければ、財産調査のうえ、預金や貯蓄型生命保険などを差し押さえた。滞納を続ける高額未納者には、警察の家宅捜索にも似た自宅の「捜索」に踏み切った。
 2010年度には滞納額は37億円弱にまで減った。
 だが、「厳しすぎる」との反発も広がった。税は市長選でも問われ、「優しい徴税」を掲げた現市長が当選した。
 選挙前、取り立て後に生活保護に陥った人の話を伝えられたという山本現市長は、こう問いかける。「税の徴収に、暮らしを崩壊させるだけの公共性があるのだろうか」
 一方、敗れた高木前市長は言う。「法律に従った徴税で、納税相談もした。『問答無用』になんてやってない。『苦しいならいいよ』では、公平公正が損なわれる。税を市民のご機嫌とりに使ってはいけない」
 市役所には「まじめな人がバカを見る」「借金して納付してきたのに不公平だ」といった声も寄せられている。
 

 自治体は税の徴収に苦しむ。取れないのは、人間からだけではない。
 福井県勝山市の山裾に、高さ75メートルの五重塔がある。勝山市は市町村税の徴収率が全国最低だが、その原因のひとつがこの塔の存在だ。
 塔は、同じ敷地内の「越前大仏」とともに地元出身の実業家が385億円を投じて1987年に造った。観光客が来たのは一時だけで、管理会社は08年に破産。市は法人市民税や固定資産税など約40億円を滞納したとして、宗教法人に寄付された大仏などを除き、五重塔や土地を04年に差し押さえた。
 市は07年に最低売却額35億円で売りに出したが、入札者はゼロ。09年に最低売却額を28億円まで下げた4回目の入札も、応募者はいなかった。
 地域経済は停滞し、巨大な塔がそそり立つ土地に、買い手は見つかりそうにない。かといって土地や建物の資産価値をゼロとして差し押さえを解除するわけにもいかない。市の担当者も「身動きがとれない」と認める。
 リゾート開発の失敗などで、売れない不動産を抱える自治体は多い。10年度の市町村税の滞納額は全国で1兆4468億円に達する。差し押さえても塩漬けの不動産が残るだけで税金は回収できない。そんな現実が広がっている。
(石松恒、多田敏男)

[前橋市長選] [福井県勝山市]

 山本龍・前橋市長=6月20日、石松恒撮影

〈前橋市長選〉
 2月19日に投開票され、前群馬県議の山本龍氏(写真)が、3選を目指した現職の高木政夫氏ら3氏を破り、初当選した。投票率は49.06%。山本氏は自民党の故小渕恵三元首相の秘書を務めた後、県議に転じ、自民党群馬県連総務会長などを歴任した。
 主に自民党が支援した山本氏の陣営は、大沢正明知事とも連携。新清掃工場の建設凍結などそれまでの主要な事業計画を否定し、高木氏の親族企業の問題も批判した。3カ月前の大阪市長選を意識して「市長交代」を訴え、無党派層への浸透を図った。
 高木氏は市債残高の圧縮や子ども医療費のいち早い無料化など実績をアピールしたが、変化を求める声に阻まれた。

〈福井県勝山市〉
 福井県の北東部に位置し、石川県に接する。人口約2万6千。明治から昭和にかけて繊維産業が栄えたが、円高によって競争力が下がり、中国などに市場を奪われてきた。市町村税の徴収率が40%(2010年度)と全国一低い。


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