「何としても一発で倒すしかない」。13日夜、首相公邸にこもった野田佳彦首相は衆院解散の電撃表明を決意し、側近に伝えた。自民、公明両党から執拗(しつよう)に「ウソつき」呼ばわりされ、足元の民主党からも「野田降ろし」が顕在化した。二正面から追い詰められた首相は、攻勢に転じる乾坤一擲(けんこんいってき)の大勝負を14日の党首討論に賭けた。
年内解散を阻もうと民主党常任幹事会は13日、「党の総意として反対する」ことで一致。ただ、首相は輿石東幹事長から報告を受けても聞き置くだけだった。13日夜には、党内の厳しい状況を伝えようと輿石氏に近い参院議員が電話したが首相は出なかった。その議員は「説得は受けないということだ。野田さんの気持ちは固まった」と見た。
首相から14日の解散表明を事前に伝えられていたのは、岡田克也副総理や藤村修官房長官らごく一部。首相周辺は「輿石幹事長にすら前日には伝えていない」と明かす。首相がこだわったのは自らの手で解散することと、内閣不信任案の可決で追い込まれる前の主体的な解散だったのだ。
内閣支持率は2割を切り、民主党惨敗の見方が強いなかで、「捨て身」の解散になるのは間違いない。首相は党首討論で「特例公債法案、一票の格差と定数是正について、早期に成立させる安倍総裁の確約をいただきたい」と迫り、最後にこう言い放った。「結論を得るため、後ろにもう区切りをつけて結論を出そう。16日に解散をします。やりましょう、だから」
■定数減、安倍氏に踏み絵迫る
14日の衆院第1委員室。党首討論に臨んだ野田佳彦首相は高揚していた。
「約束をしていただければ、今日、近い将来を具体的に提示させていただきたい」。そう語ると、首相は「寝言でも言わない」と語っていた衆院の解散時期を「今週末の16日」と明言した。衆院選挙制度改革法案で自民党が主張する「一票の格差」是正のための「0増5減」のみならず、議員定数削減を安倍氏に逆提案し、「ぜひ国民の前に約束してください」と迫った。
「身を切る」議員定数削減で自民党に踏み絵を迫りながら、先手をとって自ら宣言する――。「主体的な解散」にこだわった首相の大勝負だった。
8月に自民党の谷垣禎一前総裁に「近いうち」解散を約束して3カ月余。「ウソつき」批判で手ぐすねをひいていた安倍氏だが、首相の気迫に押された。首相の逆提案に「民主党というのはですね、改めて思いつきのポピュリスト政党だなと思いました」と、ちぐはぐな答え。首相は「明快なお答えをいただいていない」と切り捨てた。
さらに「ウソつき」批判の高まりを意識し、首相は少年時代のエピソードを披露した。首相の父親は、通知表の成績が悪くても生活態度の欄に「野田君は正直の上に馬鹿がつく」と書かれていたことを喜んだという。自民党政権の政治も攻撃した。安倍氏に「借金の山という負の遺産がたくさんあった。原子力発電を推進してきた長い間の政権」と指摘。財政再建に失敗し、原発推進を牽引(けんいん)した自民党を痛烈に批判した。
討論後、岡田克也副総理は記者団に「見事なリーダーとしての決断」と述べて首相をたたえ、「特例公債法成立の確約をとり、定数削減をギリギリまで追求した。政治家としての器の大きさ、小ささが(安倍氏との間で)はっきり出た党首討論だった」と絶賛した。
首相は討論で「増税先行」批判にこたえようと、議員定数の削減と議員歳費の削減を自民党にのませ、脱原発で自民党との違いを強調。「覚悟のない自民党に政権は戻さない」と、選挙演説さながらだった。
「攻める野田」をアピールした首相だったが、電撃的な解散表明には、これ以上解散を先送りできないという事情も大きかった。
11月に入ると、首相は「近いうちに解散すると言ったことをほごにはできない」と周囲に漏らすようになり、年内解散を模索し始めた。首相周辺には30日までの臨時国会を延長し、環太平洋経済連携協定(TPP)への参加表明や景気対策の補正予算編成で弾みをつけた上での「12月解散」を主張する声もあった。
だが、民主党内で年内解散反対の動きが加速し、「野田降ろし」も公然と語られ出した。解散に慎重な輿石東幹事長のペースにはまれば身動きがとれなくなる。首相は18日からカンボジアでの東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議に出席予定で、周辺は「外遊中にクーデターが起きかねない」と警戒。「野田降ろし」や内閣不信任を封じるには、今週末の解散しかないと判断した。
14日夜、政府・民主三役会議を終えた首相は安堵(あんど)の表情を浮かべながら、記者団に「引き続き、私を支えながら、選挙態勢に入っていくことを確認させていただきました」と語った。
衆院議員選挙公示 | 12/4(火) |
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