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(公約を問う)13:エネルギー政策 脱原発か依存か 分岐点

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原発をめぐる各党の姿勢

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日本の電力の割合は40年でこう変わった

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エネルギー政策をめぐる各党の主張

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経済部・藤崎麻里記者

 東京電力が起こした福島第一原発事故では、今も約15万人が避難したままだ。それでも、安倍政権はこれからの原発のあり方を示さず、なし崩しで原発を再稼働させようとしている。「原発依存」に戻るのか、「脱原発」に進むのか。私たちはその岐路に立つ。

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■再稼働 待望と不安 愛媛・伊方

 【鈴木友里子】豊後水道に突き出る佐田岬半島のつけ根に、四国電力伊方原発(愛媛県伊方町)がある。昨年1月までに3基すべてが止まり、原発で働く作業員らが姿を消した。地元のタクシー会社専務、渡辺茂さん(42)は「売り上げは3割も減った」とため息をつく。

 原発の新しい規制基準が8日にスタートし、まず北海道、関西、四国、九州の4電力が6原発計12基を再稼働させようと原子力規制委員会に審査を申請した。

 このうち、伊方3号機は大津波に襲われる危険性が低いとされる。災害に備えた施設の建設も終え、この冬にも最初に再稼働が認められる可能性がある。

 民宿を営む得能作彦さん(72)は「貧しかった町が豊かになったんだ」と、再稼働を待つ。若いころは出稼ぎしたが、原発ができてから四国電の社員になり、定年まで勤めた。息子も原発関連の仕事をする。

 しかし、伊方3号機が事故を起こした場合の町の避難計画はできていない。半島の先に住む人たちは海を越え、山口、大分両県へ避難しなければならない。

 「想定外の事故があれば、瀬戸内海は死の海になる。せめて避難計画と準備が必要だ」。町内で会社を経営する清家庄一さん(74)の心配は尽きない。

 沢上幸子さん(37)は東京電力福島第一原発事故により、福島県双葉町から松山市に一家で避難している。「地元経済の事情は私たちも同じだったのでよくわかる」と言ってこう話した。「安全だと思っていた原発が安全じゃなかったこともわかった。その時の代償は大きい」

■維持の姿勢、自民が突出

 【藤崎麻里】原発は、自民党だけが再稼働を進め、将来も原発を維持する方針だ。ほかの党は「脱原発」を訴えており、自民党の原発推進の姿勢がきわだつ。

 「安全神話に寄りかかりながら原発政策を推進したことを、深刻に反省しなければならない」。参院選が公示された4日、福島市で第一声を上げた安倍晋三首相はこう話し始めた。だが、その後は原発にかかわる発言は影を潜め、争点にするのを避けている。

 安倍政権は、民主党政権が打ち出した「2030年代に原発稼働ゼロ」をやめた。自民党は昨年12月の衆院総選挙で「原子力に依存しなくてもよい経済・社会構造の確立」を掲げていたが、参院選の公約ではこうした表現も消えた。

 総選挙では、原発再稼働は「3年以内に結論を目指す」としていた。だが、参院選では、原子力規制委員会が認めた原発は「地元自治体の理解が得られるよう最大限の努力をする」と、前のめりになっている。

 一方、連立与党の公明党は公約に「可能な限り速やかに原発に依存しない社会を目指す」と書き、自民党と一線を画す。再稼働は否定していないが、山口那津男代表は「(国民や地元の理解が)クリアされない限り認められない」と言う。

 では、政権内の路線のちがいは参院選後の原発政策にどう影響するのか。その行方は有権者にはっきり示されていない。

 民主党は「30年代の原発稼働ゼロ」の旗を掲げる一方、規制委の審査を通った原発の再稼働は認める。ただ、海江田万里代表は「地元が反対するのに前のめりに再稼働させる考えはとらない」と言い、自民党とのちがいを強調する。

 日本維新の会は30年代までに原発を徐々になくすという。ただ、「世界最先端の原子力技術を維持する」とも訴え、原発の活用自体は否定しない考えだ。

 みんなの党は30年までの「原発ゼロ」をはっきり打ち出す。さらに渡辺喜美代表は「(福島第一原発)事故の総括が行われていない」と述べ、現状では再稼働も認めないという。

 ほかの野党は、より鮮明に再稼働を認めず、早期の脱原発を訴える。共産党は「即時ゼロ」を掲げ、志位和夫委員長は「原発事故が収束もしてないのに原発を動かすことは絶対にあってはならない」と強調する。

 生活の党の小沢一郎代表も「再稼働で国民の命も危うくされる」と主張し、公約には「22年までに全廃」と明記した。社民党の福島瑞穂党首も「再稼働は許さない」として、脱原発基本法の制定を訴える。

 脱原発を求める議員らが民主党を離党してつくったみどりの風は、「23年までに全原発の廃炉に着手する」と訴える。新党大地も原発ゼロを掲げ、地元の北海道電力泊原発の再稼働に反対している。

■大半の党、核燃政策否定

 【江渕崇】日本では、原発で燃やした「使用済み核燃料」が行き場のないまま、原発の敷地内などにたまっている。政府は使用済み核燃料をすべて再処理してプルトニウムを取り出し、再び燃料にする「核燃料サイクル政策」を進めているが、これが行き詰まっているからだ。

 日本原燃が計画する再処理工場(青森県六ケ所村)は1997年にできるはずだったが、まだ完成していない。プルトニウムを燃やす中核施設となる高速増殖原型炉もんじゅ(福井県敦賀市)も事故で動いていない。再処理の後に出る「高レベル放射性廃棄物」(核のゴミ)を地中に埋めるなどして最終処分する場所選びも手つかずのままだ。

 それでも、原発を推進する安倍政権は核燃料サイクル政策を続ける方針だ。自民党は、高レベル放射性廃棄物について、有害な期間を短くするための研究開発を加速させるともうたう。

 一方、多くの党はこの政策の見直しや撤退を訴える。公明党は再処理せずに地中に埋める「直接処分」への転換も検討し、もんじゅは廃止したいという。ここでも自民とのちがいがきわだつ。みんなの党、生活の党、社民党は核燃料サイクルからの撤退を掲げる。

 安倍政権はまた、トルコやアラブ首長国連邦、インドなどへの原発の輸出にも力を入れてきた。自民党は、原発の輸出などを通じて海外のエネルギーにも影響力を持ち、「資源小国から資源大国に転換する」と鼻息が荒い。

 これに対し、みんなの党は「国家主導の原発輸出はやめる」と異を唱え、共産党の志位委員長も「原発セールスで日本を死の灰の商人にしてはならない」と批判する。社民党の福島党首は「風力もバイオマスも日本が世界一の技術を持っている。輸出すべきは自然エネルギーだ」と訴える。

 太陽光や風力、地熱などの自然エネは自民も含めてほぼすべての党が力を入れると宣言している。みんなの党は原発に使う予算を回し、2050年に電力の80%を自然エネでまかなう目標を掲げる。

     ◇

 〈視点〉脱原発の道筋具体的提示を

 【経済部・藤崎麻里記者】青森県大間町では昨年秋、Jパワー(電源開発)大間原発の新設工事が再開された。建設に反対する60代のマグロ漁師は「各党は主張が都合よく変化していて、信頼できない」と嘆く。参院選は、初めて投票に行かないという。

 東京電力の福島第一原発事故では、今も約15万人が避難している。除染は進まず、賠償の費用もふくらんでいる。原発の「安全神話」は崩れ、原発が抱えるコストや使用済み核燃料などの問題も明るみに出た。

 一方、原発を減らすには、火力発電の燃料費、原発がある地域の経済、核燃料をめぐる安全保障などの課題も多い。これらの課題を乗り越える具体策を示し、現実的な「脱原発」の道筋を描けるかが問われている。

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