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(公約を問う)12:教育 国主導、進む「再生」論議

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安倍政権の教育再生実行会議=4月、首相官邸

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教育の質向上に向けた各党のスタンス

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教育に関する各党の特徴的な公約

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社会部・岡雄一郎記者

■自民「世界で勝てる人材を」 保守色も際立つ

 少子化の時代、どんな子どもを育てるべきか。日本を愛し、国境を超えて活躍できる「人材」を掲げる自民党に対し、各党の立場は様々だ。国主導か現場に委ねるべきか、そんな違いもみえる。大幅な予算増加が難しい中、目指す教育の方向性が問われている。

 「全ての子どもたちが、高い水準の学力と、いじめなんかはしてはいけないよという真っ当な規範意識、道徳観を身につける機会を私たちは保証します」

 参院選公示の4日夕、東京・有楽町で街頭演説した安倍晋三首相は目指す教育をそう語った。続くせりふに力が入る。「この教育再生に抵抗をする人たちがいます。間違っています。私たちは負けません」

 自民党は、教育政策の公約に「世界で勝てる人材の育成」という見出しをつけた。英語教育を抜本改革し、日本の歴史・文化を尊重する心を育み、「世界トップレベルの学力と規範意識」を持たせるという。

 政策集には「成長戦略に資するグローバル人材の育成」と明記。「英会話やIT能力に優れ、海外でも技術革新を生み出せる」といった人材を想定している。

 一方、公約や政策集で同時に掲げる「公共心、規範意識、良き歴史・伝統・文化を大切にする」という保守的な方針は、各党の中で際立っている。

 政権奪還後、「教育再生」への動きは活発化。党や有識者を集めた教育再生実行会議が首相への提言を続ける。道徳の教科化、教科書検定見直しの検討……。いわゆる「自虐史観」を除いた歴史教科書の普及を目指し、参院選後に法整備も検討される予定だ。

 先月には、党文部科学部会が「社会のよき構成員としての規範意識、権利と義務をわきまえる教育が大事だ」として、高校の新科目「公共」の新設を下村博文文部科学相に提言した。実現は未定だが、自民党の描く「育てたい人間像」がよりはっきりと見えてくる。

 施策を主導するのは国。「義務教育は国が責任を果たす」「教育の地域間格差が生じないよう」に徹底する、などと主張する。全国一律の学力向上策や地方の教育委員会への指導強化、教科書で記載すべき事項を国が定める仕組みなどを打ち出している。

■野党 学校・地域に裁量権

 自民党の「国主導」に対し、他党の公約には、学校現場の裁量を広げようという姿勢がうかがえる。

 民主党は公約に「それぞれの学校が創意工夫を発揮できるように」と記した。その一つが、保護者や地域住民が学校運営に加わるコミュニティ・スクール(CS)の拡大だ。実際、民主党政権だった2009年度以降、全国のCSは3倍の1570校に増えている。現場の環境改善のため、教職員の増加や少人数学級の推進も訴える。

 みんなの党の公約は「国の役割は最低限の教育水準の維持にとどめ、それぞれ地域の実情に合わせたユニークな教育を行う」。教委を置くかどうかの判断を自治体に任せ、英語による授業、ビジネス教育、スポーツ選手養成など特色の明確な学校を増やすという。

 日本維新の会は「民間参入を促し、競争原理を」と主張。大阪府では、私立高校の授業料無償化を広げ、公立と競わせる政策に橋下徹共同代表がこだわった。

 共産、社民両党も「少人数学級の推進」「教員の負担軽減」「教科書選択への教員の意向反映」など学校現場の環境整備や裁量拡大を訴える。連立与党の公明党も「学校ごとの裁量の幅を広げ」る方針だ。

 だが、「育てたい子ども像」という視点でみると、各党と自民党との距離はばらつく。

 最も近いのは日本維新の会で、「グローバル人材を育成」「悪(あ)しき平等・画一主義から脱却」と主張する。教科書検定についても、「教育基本法の趣旨に基づく検定の見直し」と自民に歩調を合わせる。

 みんなの党は、基礎学力や「日本人としての素養」などの教育は掲げるものの、公共性や規範意識までは明記していない。共産は「教育の右傾化」などと批判している。

 民主党は「21世紀の日本を担う豊かな人材を育成する」として、IT機器を使う授業の普及を掲げ、「成長段階に応じた職業教育」の推進を訴える。

■無償化、幼稚園か高校か

 経済協力開発機構(OECD)は先月、加盟国の教育に関する調査結果を発表。国内総生産に占める教育の公的支出の割合が国別に示され、日本は4年連続で最下位だった。

 教育予算をめぐり、文科省は今春、政府の教育振興基本計画の原案に「OECD諸国並みを目指す」と記した。だが、財務省の抵抗で、策定された同計画では「OECDなど諸外国の教育投資の状況を参考」との表現にトーンダウンした。

 下村文科相は「経済と教育の再生は安倍内閣の最重要課題であり、車の両輪として推進すべきだ」と口にはするが、財源は限られている。そうした財政事情の中で、どの段階の学びを重点的に支援するべきか。この点で、与野党の主張は分かれる。

 自公両党は、早期の教育が人格形成や能力開発に重要として「幼児教育の無償化」を掲げる。下村文科相は2日、自民党を支持する私立幼稚園団体の集会に出席し、「国家戦略上、喫緊の課題だ」と強調した。

 両党は来年度予算案から部分的に導入したい考えだ。小学3年以下の子がいる世帯を対象に、原則として、幼稚園保育料を第2子は半額、第3子以降は無料にする方針で、経費は305億円。3〜5歳児の保育料などを完全無償にするには7900億円が必要とされ、将来的な財源確保と費用対効果に疑問の声もある。

 その一方で、自民党は、民主党政権が4千億円かけて始めた「高校無償化」には「ばらまきだ」と批判。所得制限を設けて財源を浮かそうとしている。

 民主、共産、生活、社民は、公約で反対を明記。高校進学率は98%に達し、ほぼ義務教育化した高校教育の無償化は「国際的な常識」(民主党)とみる。無償化の効果で、経済困窮を理由に中退した高校生の数は、1647人(09年度)から945人(11年度)に減ったとも主張する。

■大学生に奨学金 額・財源は示さず

 各党とも具体性が乏しいのが大学教育への財政支援だ。OECDによると、高等教育にかかる経費のうち国が負担している割合を国別にみると、日本は加盟国平均の半分程度。大半を家計が負担している状態だ。

 給付型奨学金の創設や授業料免除の拡大など、各党とも似た政策を掲げてはいる。だが、財源の裏付けどころか、金額さえも明示されていない。

     ◇

 〈視点〉いい教育とは? 経験から判断を

 【社会部・岡雄一郎記者】「グローバル人材の育成」を公約に掲げる党が少なくない。海外の一線で働ける人材を育て、産業の国際競争力を高めるという。少子高齢化や国内市場の縮小を思えば、一定の合理性はあるが、それが教育の最優先課題なのか。判断基準の一つと思う。

 教育予算の大幅増は見込めず、財源の使途も論点だ。より優先すべきは幼稚園か高校か大学か。義務教育の指導内容をめぐり、「国主導」か「現場の判断」かについても、各党の主張は異なる。

 いい教育とは何か――。難問だが、誰しも何らかの答えを持っているだろう。すべての人が教育を受けた経験があり、親として学校と関わった有権者も多い。身近なテーマだからこそ、考えの近い政党を探すのも比較的難しくないのではないか。

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