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(公約を問う)9:雇用・中小企業 働くかたち 流動か安定か

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雇用政策をめぐる各党の姿勢

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非正規の働き手が増え、平均年収は減少傾向が続く

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各党の中小企業政策をめぐる主な公約

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経済部・山本知弘記者

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経済部・竹下隆一郎記者

 安倍政権の経済政策「アベノミクス」では大企業の業績が良くなった。安倍晋三首相は「世界で一番企業が活動しやすい国」を目指すという。働き手も豊かになれるのだろうか。中小企業も恩恵を受けられるのだろうか。参院選では、だれのための経済政策なのかを見極めよう。

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■自公、「転職支援」に軸足

 「関係ない仕事までさせられる正社員は良い働き方か。奴隷的ではないのか」

 6月14日に東京都内で雇用をめぐる討論会があり、鶴光太郎・慶応大院教授が顔を紅潮させ、労働組合幹部らに反論した。

 鶴氏は政府の規制改革会議で雇用ワーキンググループの座長をつとめる。安倍政権がアベノミクスの「第3の矢」として打ち出した成長戦略には、鶴氏らの提案が盛り込まれた。

 キーワードは「人が動く」。その目玉が、仕事や勤務地を限った「限定正社員」を広げることだ。正社員と、派遣や契約などの非正規労働者の中間のような働き方で、鶴氏らは「残業や転勤ができない人も働きやすく、専門性を身につけやすい」と主張する。

 安倍政権や自民党は「雇用維持」から「転職支援」への転換を進めようとしている。成長戦略では、不況時に雇用を守る企業を助ける「雇用調整助成金」を減らし、従業員を転職させた企業に出す「労働移動支援助成金」を増やすという。

 安倍晋三首相は今月3日の党首討論で「スムーズな転職のため、職業訓練やキャリアアップにお金を使う」と訴えた。連立与党の公明党もより良い仕事につけるような支援や限定正社員の拡大を公約にする。

 ところが、公約であえて触れていないものがある。

 何時間働いたかに関係なく、原則として最初に決めた賃金だけを支払う「裁量労働制」の拡大だ。実は、成長戦略では秋から検討することになっている。

 「解雇の金銭解決制度」にも触れていない。企業と働き手が解雇をめぐって争った時に最終的にお金で解決する制度だ。「企業が解雇しやすくなる」として国会で野党から批判され、成長戦略にも入らなかった。

 しかし、政府の規制改革会議が6月にまとめた報告書では「丁寧に検討を行っていく必要がある」と書かれた。岡素之議長(住友商事相談役)は「関心を持ってフォローしていく」と話し、参院選後に議論を本格化する考えを示している。

 みんなの党と日本維新の会も規制緩和に積極的だ。みんなは雇用調整助成金をやめ、金銭解決制度をつくるという。維新も雇用調整助成金の見直しや「事後的な金銭解決を含め、解雇規制を緩和」と明記した。

 一方、これらは働き手のくらしを不安定にする、として反対する党も多い。

 民主党は限定正社員を「見かけ正社員づくり」と批判する。限定正社員は仕事がなくなると解雇されやすいという不安が根強いためだ。待遇が悪い働き手を増やすよりも「中間層を厚く、豊かに」と訴える。

 生活の党は「解雇しやすくする規制緩和の阻止」、共産党は「規制緩和をやめさせ、人間らしく働けるルールを」、社民党は「正規への転換」などと訴える。

■3人に1人は非正規雇用

 国税庁の調査では、勤め人の平均年収は1997年の467万円をピークに下がり、2011年は409万円まで落ち込んだ。企業が人件費を抑えるため、正社員を減らし、非正規労働者を増やしてきたからだ。

 非正規の働き手は働く期間が限られ、賃金も正社員より安い。総務省の労働力調査によると、この10年で400万人近く増えて1900万人に迫り、勤め人の3人に1人を占める。年収200万円未満で働く人も1千万人を超えた。

 安倍政権が力を入れる限定正社員が増えれば、非正規の人たちの待遇改善につながる期待もある。ただ、厚生労働省の11年の調査では、すでに半数の企業が何らかの限定正社員制度をとり入れ、多くは賃金が正社員の8割ほど。正社員を減らす口実に使われるおそれもある。

 

■中小育成策、力点に違い

 関東のある食品会社は、スーパーのそうざいコーナーにあるそばや冷やし中華をつくっている。年間数十億円の売り上げのうち6割は夏に稼いでおり、今が最も忙しい。だが、社長は言う。「アベノミクスの効果はまだ届いていない」

 298円のざるそばはよく売れるようになったが、398円の山菜そばになるとそう伸びない。100円高いだけで消費者の財布のひもは固くなる。

 逆に、4月からは円安などでめんに使う小麦粉の価格が1割近くあがった。もうけを削るか、光熱費を減らさないといけない。

 来年春に予定される消費増税も不安だ。1997年に消費税率が3%から5%に上がった時は売り上げががくっと落ち、従業員の退職金を削った。「商品を納める時に増税分を上乗せしたいが、それを提案したら別の業者に代えられる」

 日本銀行の6月の調査では、大企業・製造業の景況感が1年9カ月ぶりにプラスに転じたが、中小企業はマイナスのままだ。中小企業家同友会の調べでは、全国約400社のうち、円安で上がった材料費を価格に上乗せできたのは8・6%にとどまり、86・7%は「利益が減った」という。

 参院選では、中小企業を支えようという訴えに差はないが、支援の力点にちがいがみえる。

 自民党は「強い中小企業」をつくる考えだ。技術開発を進め、中小企業の輸出額を20年までに10年の2倍に上げるという。中小企業が銀行からお金を借りる時、経営者の自宅などを担保にする「個人保証」をできるだけしなくてもいいようにして、起業や投資が増えることを期待する。

 民主党は、アベノミクスによる円安などが中小企業を困らせていると強調している。そのうえで中小企業が培ってきた技術の伝承や、新しく起業する人の支援を強めると訴える。

 中小企業を守ることに重点を置く党もある。共産党は「強引な単価たたきや下請けいじめをなくす」と訴え、大企業と中小企業の取引ルールづくりを目指す。社民党も、大企業が下請け企業に安い価格を強いるのを厳しく監督する法律を整えるという。

■「倒産の恐れ」5万〜6万社

 中小企業は全国に約400万社ある。国内企業の9割を占め、雇用の7割を支える。2008年秋のリーマン・ショックで倒産が急増したため、民主党政権は09年12月、中小企業の借金返済の先延ばしを銀行に求める金融円滑化法をスタートさせたが、安倍政権は今年3月に打ち切った。

 倒産は09〜12年度には減り続けたが、円滑化法を使った数十万社のうち5万〜6万社が「今後、倒産のおそれがある」という。円滑化法終了後も政権は銀行に企業の資金繰りを助けるよう求めているが、銀行は不良債権化を恐れており、いつまでも続けられない。

     ◇

 〈視点〉「働きやすさ」重視の社会に

 【経済部・山本知弘記者】参院選後、サラリーマンの働き方は大きく変わるかもしれない。転職が当たり前の社会を選ぶかどうかが問われているためだ。

 雇用のルールを改めれば、条件の良い職に就ける可能性が広がるという。だが、転職しやすい社会は、転職を迫られる社会と裏表だ。チャンスをつかむ「強い労働者」がいる一方、行き場を失う「弱い労働者」も出てくる。安定して働きたい人、転職に失敗した人はどうなるのか。

 多くの有権者が望むのは「働かせやすさ」ではなく、「働きやすさ」のはずだ。働くことは単にお金を稼ぐ手段ではなく、人とつながり、居場所をつくることでもある。子どもが成長した時、安心して送り出せる社会にしたい。

     ◇

 〈視点〉地域の担い手 持続的支援を

 【経済部・竹下隆一郎記者】中小企業は地域の雇用を支え、経営者らは自治会や地域の行事の中心でもある。東日本大震災では、被災地へ物資を運ぶルートの確保や安否情報の確認に一肌脱いだ。中小企業を育てることは、地域社会を守る政策でもある。

 今年3月で終わった金融円滑化法では銀行への返済を先延ばしできるようにした。だが、一時的に資金繰りを助けたり補助金を配ったりするだけでは、効果は長続きしない。

 学生向けに中小企業がPRできる場を増やせば、優秀な人材が集まる。商談会を開いて新しい取引を後押ししたり、零細企業どうしの合併を促したりして力をつけさせることも大切だ。長い目でみて、中小企業を育てる政策を選びたい。

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