メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

このエントリーをはてなブックマークに追加

(公約を問う)7:医療・介護 進む高齢化 「痛み」語らず

写真・図版

医療・介護制度で各党の目指す方向は?

写真・図版

医療費の請求書を眺める神戸市の女性(67)。糖尿病の悪化などで自己負担が増え、今は月約3万円かかる

写真・図版

医療・介護分野の各党公約のポイント

写真・図版

文化くらし報道部・高橋健次郎記者

 【高橋健次郎、有近隆史】健康を保ち、長生きしたい――。そんな願いを支える医療・介護。高齢化で費用が増え、制度は大きく揺らぐ。負担増や給付カットが避けられないが、多くの政党は「痛み」を語ろうとしない。

キーワードで読む選挙ページはこちら

■細る現役 負担増し給付減少

 収入は増えない。なのに医療と介護を合わせた保険料は月約2万4千円で、5年前より約4400円も高くなった。埼玉県秩父市の男性会社員(53)は、じわじわと家計を圧迫する負担増に直面している。

 勤め先は従業員が約50人の建設会社。額面で40万円余りの月収は横ばいだ。一方、加入する中小企業向けの「協会けんぽ」の保険料は年々上がる。月給にかかる料率は2009年度に8・2%(全国平均、労使で半分ずつ負担)だったが、12年度は10%に。高齢者の医療費を現役世代が支える制度の分担金が増え、財政が悪化したことも一因だ。

 住宅ローンは月約9万円、子どもは3人。「暮らすのに精いっぱいで、貯蓄もできない。高齢者を支える役目はあると思うが、将来、自分たちの世代は支えてもらえるのだろうか」

 医療や介護が必要になった人を社会全体で支える公的な保険制度。保険料や税金で費用を負担するのは、現役世代が中心だ。少子化や賃金低迷で支え手の力が弱まる一方、高齢化で費用は増え続ける。

 支えられる側に負担を分かち合ってもらう議論も始まっている。特例で1割に据え置かれている70〜74歳の医療費窓口負担について、安倍晋三首相は4月、法律で定める2割への引き上げを表明した。時期は今後検討するが、来年4月が有力だ。

 窓口負担は69歳まで3割が基本。今は70歳になると1割に下がっているのが、見直し後はそこまで下がらず2割にとどまる。糖尿病などで通院する神戸市の女性(67)は複雑な心境だ。「年を重ねれば体が弱まるので、負担は軽い方がいい。でも、(高齢者の医療費を)肩代わりする若い人が気の毒とも思う」

 見直しは介護にも及ぶ。政府の社会保障国民会議は、要介護度の軽い人向けのサービスを保険制度から切り離す案を検討中。市町村の事業に移し、NPOなども担い手とすることで、費用を節約するねらいだ。

 だが利用者側には動揺が広がる。「介護保険を受けられなくなったら、健康でいられるのか。正直、不安」。東日本大震災で大きな被害を受けた宮城県南三陸町の仮設住宅に住む女性(86)は、こう漏らす。

 7段階の要介護度で最も軽い「要支援1」。腰が悪く、かがんで掃除ができない。認知症予防のためデイサービスに通い、ヘルパーに掃除に来てもらう。

 同町では65歳以上が払う介護保険料の平均額が4月から1100円上がり、月4500円になった。女性は「保険料が上がるのは、ある程度仕方ないが、介護サービスがなくなるのは困る」とため息をつく。

■自公民、公約あいまい/維新・みんな「効率化」/共産・社民「充実」

 財政面でほころびが目立つ医療・介護をどう立て直すのか。「社会保障の財源確保」との大義名分で消費増税を主導した自公民3党の公約はあいまいだ。

 自民党は「持続可能な制度を構築」とうたう。だが肝心の中身は、昨年夏の3党合意に基づき設置した社会保障国民会議の議論などを踏まえ、「必要な見直しを行う」とするにとどめた。あとは「医師の適正配置」や「予防医療、食事・運動指導の推進」など、当たり障りのない内容だ。

 公約と一緒に公表した政策集には「保険給付の範囲の適正化」などを盛り込んだものの、公約より格下の扱い。安倍首相が引き上げを明言した70〜74歳の医療費窓口負担には触れていない。記者会見で「負担増を語るのを避けたのでは」と指摘され、高市早苗政調会長は「避けていない。限られたスペースなので、公約は私たちが責任を持って実行する政策として訴えている」と反論した。

 公明党は充実路線だ。「高額療養費制度」で患者負担の上限額引き下げを明記した。

 一方の民主党。介護保険の軽度者切り離しなどの議論に触れ、「社会保障が後退する」と安倍政権を批判。医療機関の経営改善につながる与党時代の診療報酬引き上げの実績を「医療崩壊を食い止めた」とアピールする。与党時代に自治体の反対で実現できなかった後期高齢者医療制度の廃止も、引き続き公約した。

 これらの政策は「社会保障を充実させて安心できる社会をつくり、内需を拡大させる」(桜井充政調会長)との考え方が土台にある。だが、さらに必要になる財源は示していない。

 3党と対照的に、大胆な「効率化」に踏み込んだのは、日本維新の会とみんなの党だ。維新は「社会保険への税金投入は低所得者の負担軽減のために限る」とし、高齢者向け給付の適正化や医療費自己負担割合の一律化を打ち出した。みんなは「所得に応じた負担を求める」として、保険料の月収上限の撤廃を掲げる。

 規制改革を強調する姿勢も共通だ。公的な保険が適用される診療と適用されない自由診療を併用する「混合診療」は、医療界に「保険診療の範囲を狭め、国民皆保険を揺るがす」との警戒感が強い。だが両党は「解禁」を公約した。

 共産党、社民党などは福祉の充実を掲げ、診療報酬引き上げや国民健康保険料の軽減などを並べた。社会保障の財源確保のための消費増税には反対し、代わりに企業への課税強化などを訴える。

■費用、毎年3兆円増加 厚労省試算

 医療・介護制度の足元が揺らぐ大きな原因は、少子化と高齢化が引き起こす人口バランスの変化だ。

 国立社会保障・人口問題研究所によると、1960年の日本社会は15〜64歳の現役世代11・2人で高齢者1人を支える「胴上げ型」だった。今は2・8人で支える「騎馬戦型」。約50年先の2060年には、1・3人で支える「肩車型」になると予測されている。

 高齢者が増えると、社会保障の費用も増える。厚生労働省の試算では、12年度に税金・保険料から給付に使われた費用は約110兆円。これが25年度は約149兆円に膨らむ。毎年3兆円ほど増え続ける計算だ。

 分野別では、この間に介護が約8兆円から約20兆円に、医療は約35兆円から約54兆円に増える。伸び率はそれぞれ約2・4倍、約1・5倍で、年金の約1・1倍を大きく上回る。

 支え手が減ると、保険料上昇も避けられない。国民健康保険では1人あたりの保険料が12年度は平均月約7600円だったのが、25年度には約9300円に。65歳以上が払う介護保険料も月約5千円から約8200円まで上がる見通しだ。

 自公民は、消費税の増税分を社会保障に使うとしている。だが、実際の使い道は、国の借金などで穴埋めしてきた部分の手当てなどが中心で、今後も増え続ける費用をまかないきれないのが実情だ。医療・介護をどう効率化するかは積み残しの課題になっている。

     ◇

 〈視点〉人の命に直結 現実的な道を

 【文化くらし報道部・高橋健次郎記者】医療や介護の行く末を考えれば、選択肢は限られる。サービスの絞り込み、保険料アップ、税金の追加投入……。生活を直撃する耳の痛い話だが、真正面から向き合う政党が少ない。

 大きな制度改革には時間がかかる。1973年に無料化された老人医療。窓口で一定割合の負担を患者に求める今の仕組みを導入するのに約30年かかった。団塊の世代が75歳を迎え、医療・介護費の膨張に拍車がかかると予想される2025年まで、あと12年。残された時間は少ない。

 政権与党は厳しい現実から逃げられない。参院選後、突如として社会保障に切り込むことだってありうる。人の命にかかわるテーマであり、今からでも現実的な道筋を語るべきだ。

新着記事一覧

トップページ

選挙などの日程

参院議員選挙公示 7/4(木)
参院議員選挙投開票 7/21(日)
期日前投票期間 7/5(金)〜20(土)
朝日新聞で見る選挙のすべて