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(公約を問う)6:復興・公共事業 「コンクリ」推進か選別か

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各党の公共事業・防災に対するスタンスは

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減ってきた公共事業費はまた増加に向かいつつある

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成瀬ダムに向かう国道の脇にはダムの早期完成を求める看板が立てられている=秋田県東成瀬村、木村聡史撮影

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成瀬ダムの建設予定地。流れを迂回(うかい)させるための仮排水トンネルができていた=秋田県東成瀬村、木村聡史撮影

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経済部・木村聡史記者

 【木村聡史】安倍政権は「国土強靱(きょうじん)化」を掲げ、公共事業を増やそうとしている。災害に強い国土づくりは大切だが、財政にはゆとりがない。「ばらまき」を復活させるのか、くらしに必要な公共事業を選んでいくのか。東日本大震災の復興にも同じことが言える。

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■自民、道路・ダム手厚く/野党、「ばらまき」批判

 石川県のある建設会社はこの夏、約40人の従業員のボーナスを昨年夏より1割ほど増やした。道路関連の工事の下請けが多く、公共事業が減って苦境が続いていた。だが、安倍政権ができて「春ごろから仕事が増え始めた」と幹部は喜ぶ。

 安倍政権が経済政策「アベノミクス」で打ち出した3本の矢(金融緩和、財政出動、成長戦略)では、財政出動の柱が公共事業だ。今年度の政府当初予算で公共事業費を昨年度より16%増やした。2月に成立した昨年度補正予算などと合わせると、約10兆円になる。

 2000年代に入り、小泉純一郎政権からは公共事業を減らしてきた。その流れは大きく変わった。安倍政権は防災・減災や古い施設の維持管理に力を入れるという。

 しかし、実際は道路やダム、堤防などをつくるという「旧来型事業」に手厚く予算をつけている。

 秋田県の東成瀬村で進める成瀬ダムもその一つだ。今年度予算は昨年度の5倍の約35億円をつけた。完成までの総事業費は1500億円を超す。

 ところが、地元の農家の男性(47)にはねらいがよくわからない。ダムをつくる目的は農業用水を確保することだが、今は不足していないからだ。

 むしろ、若者が離れていく村の将来を心配する。「学費の補助など子育て支援が充実すれば、若い人も増えるかもしれない。ダムのお金のうち1億円でもまわしてほしい」

 参院選後はどうなるか。

 自民、公明両党は防災のために公共事業を進める「防災・減災等に資する国土強靱化基本法案」の成立をめざす。自民党は公約に「国土強靱化を強力に推進」とも明記している。

 いっしょに発表した政策集には「高速道路の未開通区間の解消や4車線化」「北陸新幹線の大阪延伸」などが並ぶ。参院選で勝てば、公共事業をどんどん復活させる腹づもりだ。

 公明党は「防災」を訴える。「防災対策をいつやるの。いまでしょう」。山口那津男代表は4日の街頭演説でこう訴えた。

 これに対し、野党は防災は必要としつつも、「ばらまき」批判を強めている。

 民主党は公約で「防災・減災や維持管理・更新の視点から、選択と集中を進める」と主張する。細野豪志幹事長は8日の演説で「また公共事業をばらまいている。将来に残すべきは巨大な借金とコンクリートの山じゃない」と訴えた。

 みんなの党も「全国ばらまき型の公共事業を見直す」と強調し、日本維新の会は「公共工事拡大路線とは異なる経済成長をめざす」と主張する。両党とも規制緩和では自民党と重なる部分もあるが、公共事業については一線を画す。

 共産党や社民党も、防災や維持更新は重視し、ダムなどの新規投資は抑えるという立場だ。「大型開発など歳出の浪費にメスを入れる」(共産党)、「大規模公共事業からの転換」(社民党)などと訴える。

■復興支援、力点に違い

 安倍政権は、震災復興を「最優先課題」と言う。民主党政権が「5年間で19兆円」とした復興予算を25兆円に増やした。だが、被災地ではその取り組みを疑問に感じる声もある。

 津波の被害が大きかった宮城県気仙沼市。農業を営む男性(74)は仮設住宅のある高台から「中島海岸」を見つめた。1キロにわたる海岸には、2年半後をめどに県内で最も高い14・7メートルの防潮堤ができる予定だ。

 近くを流れる川の堤防を含め、総事業費は約200億円になる。ところが、背後には震災前にあった民家は一つもない。津波ですべて流され、被災者の多くは高台へ移るからだ。

 男性は言う。「だれのために巨額の費用を使うのだろうか。むしろ津波が来た時の避難道が整備されていない地区も多い。命を守るなら、まずそういうところに使うべきじゃないか」

 同じ仮設住宅に暮らす60代の女性は「防潮堤より先に一秒でも早く高台に住宅を再建してほしい」と願う。仮設住宅は夏は暑く、冬は寒い。がまんできずに地元を離れる人もいる。

 安倍政権による国土強靱化も足かせになりかねない。すでに復旧・復興の工事で作業員らの人手不足が起きているが、全国で公共事業が増えれば、被災地の外から来ている作業員が散らばってしまう。

 建物や道路建設に使う生コンクリートなどの建設資材も足りない。採算が合わないとみて工事を請け負う業者が決まらない「入札不調」も頻発している。

 参院選では、与野党とも「復興を加速する」「くらしの再建を急ぐ」と訴え、大きな差はない。ただ中身や力点の置き方がちがう。

 自民党は「人員不足や資材不足などにきめ細かく対応」と訴える。公明党は人材不足を解消するため、「公務員OBや民間経験者の活用」をあげた。

 民主党も「人材・資材の不足への対応に万全を期す」と公約する。加えて、自然エネルギーの利用を増やす「新産業特区」をつくり、被災地の経済再生をはかるとも強調している。

 「地元主導」をうたう主張もある。みんなの党は「現地主導の復興を進め、不要不急な公共工事を減らす」、日本維新の会は「被災地の知事や市町村長に復興の権限を与える」という。生活の党は「地域のニーズに応えられる、極めて自由度の高い財政支援制度をつくる」と訴える。

 共産党と社民党は、医療費の窓口負担の免除など、被災者のくらしの負担を軽くすることに重点を置いている。

■大改修時代、50年間で190兆円試算

 政府の公共事業予算は、1990年代は毎年10兆円ほどあった。バブル崩壊後の景気対策として自民党政権が公共事業の大盤振る舞いを続けたからだ。

 その後、自民党の小泉政権が削減に乗り出し、00年代から減り始めた。「コンクリートから人へ」を掲げて09年にできた民主党政権はさらに削り、12年度には政府当初予算で4・6兆円に減った。

 今後増えるのは、古い道路や橋といったインフラ(社会基盤)の維持・管理や改修・造り直しの費用だ。昨年12月に中央道笹子トンネルの天井板崩落事故が起き、老朽化の課題が浮き彫りになった。国土交通省は今後50年間でインフラを造り直すのに190兆円かかると試算する。

 だが、政府も自治体も深刻な財政難に陥っている。「維持・管理もやり、新設も進める」では、お金がいくらあっても足りない。

     ◇

〈視点〉余裕ない財源、見極めが大事

 【経済部・木村聡史記者】今後の公共事業のあり方を議論する時に、欠かせない視点の一つが人口減少だ。50年後には日本の人口は今の3分の2に減る見込みだ。人口が増えるのを前提にどんどん新たな事業を進める時代ではない。加えて、財政には余裕がない。

 だから、公共事業は目先の便利さや地域への利益誘導ではなく、数十年後も必要なものなのかを見極める必要がある。道路にせよダムにせよ、造った分だけ維持管理費も増え、将来世代の負担になる。

 ばらまきはやめ、限りある財源で必要なインフラを整え、維持する。こんな公共事業の考え方を示す候補者に一票を投じたい。無駄な事業をやめれば、その分、被災地の復興事業にお金を投じることもできる。

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