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(安倍政治を問う)負担増、年金生活を直撃 物価2%増「冗談じゃない」

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負担は増え、支給は減る

 【編集委員・友野賀世、有近隆史】最近、買い物に行くと気がめいる。スーパーで特売の小麦粉の価格は158円となり、数十円上昇した。今月からは食パンやハムも上がった。

 千葉県で一人暮らしの女性(73)は、国民年金と亡き夫の遺族年金で暮らしを支える。感じるのは負担増ばかりだ。「食品だけじゃない。介護保険料も電気代も、みんな高くなった」

 介護保険料は毎月5400円。昨年度の改定で1千円近く上がった。5月の電気代は6千円を超えたが、エアコンを使わない時期としては初めてだった。東京電力によると、標準的家庭の電気代は昨年比で約1割アップした。

 来年4月には消費増税が予定される。アベノミクスによる株価変動や企業業績回復のニュースは、まったくぴんとこない。安倍政権が掲げる年2%の物価上昇目標は、「冗談じゃない」と怒りすら覚える。

 年金は介護保険料の天引き後で月15万円程度。家計の足しにと週3回パートにでる。「もっと苦しい人はたくさんいるし、私はめぐまれている」と女性は言う。それでも家の修繕費などの臨時出費もあり、病気や要介護になったときの不安は消えない。

 厚生労働省の調査(2011年)では、年金をもらう高齢者世帯の6割近くは、ほかに収入がない。

 その「頼みの綱」の年金が目減りする時代に入る。10月からは過去の物価下落時に減額しなかった分の引き下げが始まる。物価や賃金が上昇すれば、給付額を自動的に抑える仕組みも動きだす。いずれも年金財政維持のため、安倍政権誕生前から決まっていたことだが、どこまで年金が老後を支えられるのかが問われることになる。低年金・無年金など高齢期の貧困も、大きな課題だ。

 一方、医療・介護の費用も急増している。国の社会保障支出は年1兆円ずつ増え、高齢者の保険料負担も限界が迫る。65歳以上の介護保険料は00年度の制度発足時(2911円)の1・7倍に達した。給付カットなど「痛み」を伴う議論は避けられない状況だ。

 社会保障改革について安倍晋三首相は、「社会保障制度改革国民会議の審議結果に加え、(自民、公明、民主の)3党協議など、さまざまな状況を踏まえて検討していく」といった答弁を国会で繰り返した。

 安倍政権が年金・医療・介護をどう改革し、老後の安心を保障するのか。その将来像は、まだ語られていない。

 ■生活保護に引き締め圧力

 社会保障のなかで、安倍政権がはっきりと削減、抑制を打ち出したのが生活保護だ。生活費にあたる「生活扶助」は8月から削減が始まり、最大10%の減額となる世帯もある。

 「反対の声を上げられない人のところから削減しようとしているのではないか」。生活保護を受給して中学生の子どもと暮らす首都圏の40代女性は、政治に不信感を募らせる。

 数年前、夫のドメスティックバイオレンス(DV)から逃れ、着の身着のままで家を出た。その後、心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断され、働くことも難しくなり、生活保護を申請した。

 戦後最多の216万人に達する受給者。昨年、人気芸人の親が生活保護を受給していたことから厳しい世論が広がった。自民党は先の総選挙で「不公正なばらまきを阻止」と公約。給付水準の10%削減を掲げ、政権交代後に実現させた。

 強まる引き締め圧力。「受給者はずうずうしい別世界の人間だと思われている」。女性は世間の目を恐れ、受給を隠して暮らす。

 安倍政権は6月にまとめた「骨太の方針」でも、生活保護の給付水準を見直す方針を打ち出した。さらなる削減を示唆するものだ。

 不正受給対策を強める生活保護法改正案も先の国会で衆院を通った。民主党政権時から検討され、困窮者の自立支援策を進める新法とセットの制度改正だった。会期末に参院で廃案となったが、厚労省は同じ法案を再提出する構えだ。

 ただ自民党には本人や家族の「自助」と給付引き締めを求める意見が強い。「参院選の結果によっては、不正受給対策にもっと力を入れよと言われるかもしれない」。厚労省幹部は話す。

 ■識者はどう見る

 森信茂樹・中央大法科大学院教授(税法) 安倍政権は、金融緩和、財政出動、成長戦略という「3本の矢」を打ち出してきた。しかし税や社会保障を通じて「余裕のある人により多くの負担を求め、余裕のない人に回す」という再分配を強める政策が欠けている。「第4の矢」として、こうした部分に目を向けるべきだ。高齢者でも株や事業で高い所得があるならば、もっと負担してもらう、所得が少ない若い人には、給付付き税額控除など生活保護以外で支援する仕組みを設ける、といった政策対応を考える必要がある。

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