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(安倍政治を問う)加速する原発再稼働 知らぬ間に始まった工事

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再稼働に向けた工事が始まった日本原子力発電の東海第二原発=2011年12月、本社ヘリから

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前のめりになる原発政策

 【鈴木友里子】茨城県東海村の村上達也村長(70)は、耳を疑った。

 日本原子力発電が、村にある東海第二原発(停止中)で「フィルター付きベント(排気)」や防潮堤の工事を始めたという。6月19日の記者会見で記者から知らされ、「何だそれ。私は知らないぞ」と叫んだ。

 確認すると、前日の18日朝から工事を始めていたことがわかった。フィルター付きベントは、事故が起きた時に大気中への放射性物質の飛散を抑える。防潮堤とともに、原発を再稼働するために必要な工事だ。

 18日は午後2時から日本原電幹部と定例の協議を開いたはず。だが、着工の話は一切なかった。あとになって、この日夕方に日本原電の担当者が役場に持ってきた書類に工事開始が書かれていたことがわかった。

 地元の了解を得ず、事前に連絡さえせず、原発再稼働に必要な準備が進む。

 東海村は1966年に国内で初めて東海原発(98年に運転終了)が営業運転を始めるなど、原子力とともに歩んできた。だが、東日本大震災後は「脱原発」にかじを切る。

 震災時に東海第二原発は5.4メートルの津波をかぶり、非常用発電機1台が止まった。波があと70センチ高ければ、東京電力福島第一原発と同じ「全電源喪失」に陥るおそれがあった。

 村上村長は、運転開始から35年になる東海第二の廃炉を求め、日本原電に「再稼働のための工事は反対だ」と繰り返し伝えた。

 工事には数年かかり、原発の運転は原則40年と定められている。2、3年動かすために大工事をするのはコスト面でも見合わない。

 「伝え忘れた」。反対を押し切って工事に入った日本原電が、事前に伝えなかった理由だ。工事は「再稼働を前提とするものではない」として、続ける。

 村上村長は「再稼働するつもりがなければベントなど設置する必要がない。うそぶいている」と憤る。

 安倍政権は、野田政権(民主党)の「2030年代の原発稼働ゼロ」という目標を白紙に戻した。原発を将来どうするかの方針を示さないまま、7月から原子力規制委員会が再稼働申請を受けつけ始める。今月まとめた成長戦略には「原発の活用」も盛り込んだ。

 政権交代前、日本原電は東海第二を再稼働させる意向を示さなかったという。電力業界は風向きが変わるとみるや、なし崩しの「原発回帰」をねらう。

 村上村長は言う。「政権交代後、電力業界が勢いづいてきた。傲慢(ごうまん)になっている」

 ■新設計画、盛り返す推進派

 【小川裕介】瀬戸内海に面した山口県上関(かみのせき)町には、港近くに約1.5万平方メートルの空き地がある。町は今年度、ここに総合文化センターと産地直売所をつくる工事を始める。

 財源は、原発計画がある自治体向けに政府が出している交付金だ。中国電力が計画する上関原発の本体工事が始まれば、さらに86億円が転がりこむ。

 福島第一原発事故を受け、原発予定地の周辺海域の埋め立て工事は止まったままだ。野田政権は、まだ着工していない上関原発など9基の建設を認めない方針を打ち出していた。

 ところが、安倍晋三首相は就任前に地元の山口県を訪れ、「民主党が決めたことは見直す」と表明した。首相になると、新しくつくる原発について「腰を据えて検討する」と繰り返す。

 「参院選で自民党が勝てば、各地で再稼働が進み、新設の可能性も出てくる。新たな交付金が入れば町は楽になる」。建設推進派の町議の期待は高まる。

 町内の建設業者らも考えは同じだ。参院選では山口選挙区から立候補する林芳正農林水産相の支援にフル稼働する。自民党の支部長をつとめる右田勝町議は「恥ずかしくない結果を残すことで、国に推進の意思を示したい」と言う。

 山口県も態度を変え始めた。「安倍政権の足もとの県」と強調する山本繁太郎知事は3月、中国電が出した埋め立て免許の延長申請について「許可」「不許可」の判断を1年ほど先送りする意向を示した。

 野田政権の時は不許可の考えを示していた。安倍政権の方針を見極めて判断する姿勢に転じたのだ。

 反対派の住民は警戒を強める。26日に広島市内で開かれた中国電の株主総会には、反対デモを毎週続ける住民らがバスで駆けつけ、計画中止を訴えた。

 「安倍政権になってから再稼働への動きが早く、上関原発も動くかもしれない。計画が白紙撤回されるまで声を上げ続けるしかない」。反対派の清水敏保町議の思いだ。

 ■識者はどう見る

 植田和弘・京都大学教授(環境経済学) 再稼働を目指すために必要な原発の安全対策コストはかなりの額になる。東電福島第一原発事故の被害額がどれだけふくらむかもまだわからない。自動車や航空機とちがい、原発は事故の確率も被害額も見通せておらず、経済性の観点からみれば「脱原発」に進まざるを得ない。政府は原発についての大方針をあいまいにしたまま再稼働を進めるのではなく、廃炉の枠組みなどを含めてきちんとした戦略を打ち出すべきだ。

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