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(安倍政治を問う)「国土強靱化」復興に影 人手不足、被災地を直撃

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「すまい」の復興は進んでいない

 【伊藤喜之、田中美保、安倍龍太郎】宮城県の三陸沿岸で漁港の復旧を手がけている建設会社の社長は5月、長く下請けを頼んできた北海道の業者から作業員12人の派遣を渋られた。

 それまで「いくらでも派遣する」と言ってきた業者は、こう説明した。

 「公共事業の仕事が、地元でも出始めまして……」

 予兆は3月ごろからあった。静岡県の下請け業者が「南海トラフ沿いの地震に備える仕事が、地元でできそうなんで」と断ってきたのだ。

 安倍晋三首相は26日の記者会見で「毎月、被災地を訪問し、地道に一歩一歩、復興を加速させてきた」と胸を張り、復興に重点を置く政権の姿勢をアピール。今年1月には、5年間で19兆円だった復興予算枠を25兆円に拡大し、今年度予算には4兆円余を計上した。

 ところが、予算枠の拡大は復興の加速には必ずしも結びついていない。被災地での人手不足は深刻だ。東日本大震災を機に防災や減災の必要性が声高に言われ、自民党が全国で展開しようとしている「国土強靱(きょうじん)化」も、人手不足に影を落とす。

 国土強靱化のかけ声のもと、今年度予算の公共事業費は5・3兆円に上り、前年度当初より16%増加。1月に決めた2012年度補正予算と合わせれば公共事業費は計10兆円に達する。アベノミクスの柱のひとつの財政出動として予算が大盤振る舞いされた結果だ。

 先の建設会社社長は「全国で工事が増えるのは歓迎だが、もう少し後でもいいのではないか」と指摘。この建設会社は被災者が移転する高台の造成も手がけるつもりだったが、人手不足で当面は難しそうだという。

 仮設住宅で暮らす宮城県南三陸町の漁師、佐々木菊郎さん(62)が長年使ってきた地元の漁港は今春に復旧する予定だったが、まだ半分程度。佐々木さんは「何を先にやるべきか、安倍政権は分かってない」と、いら立ちを隠さない。

 南三陸町の佐藤仁町長はこの春、「国土強靱化によって人手や資材がさらに不足し復興の速度が鈍らないか不安だ」と話していた。こうした懸念が現実になりつつある。

 ■賃上げで対応、しわ寄せも

 被災地の人手不足に、安倍政権は賃金の引き上げで対応しようとしている。

 国土交通省は3月、建設作業員の賃金を引き上げるようゼネコンなどの建設会社に要請。国などが公共事業の発注額を決める際に参考にする「公共工事設計労務単価」を4月から引き上げると発表した。岩手、宮城、福島の被災3県の単価は、全国平均より6ポイント高い平均21%引き上げた。

 単価の公表を始めた1997年度以降、全国的にほぼ引き下げが続いてきた中で空前の引き上げ幅だ。太田昭宏国交相は「災害対応やインフラの維持更新のためにも、若者の確保は極めて重要」と説明。宮城県建設業協会の担当者が「これまでの実勢との乖離(かいり)はかなり解消されたのではないか」と話すように、建設会社には人手を集めやすくなることへの期待感が出る。

 一方で、しわ寄せもある。宮城県石巻市で水産加工を手がけるヤマトミの千葉雅俊社長(61)は「復興工事に人手をとられ、パートが集まらない」とぼやく。サバの骨を抜く作業などにあたるパートの時給は700〜850円。震災前の4割ほどに落ち込んでいる売り上げを戻そうとしても、建設会社に対抗して時給を上げれば利益は吹き飛びかねない。

 民主党政権時代の復興政策の遅れを批判してきた安倍首相は、復興政策の中でも住まいの再建に力を入れる。復興庁によると、6月現在、避難生活を送る人は約29万8千人で横ばい傾向が続く。「先が見えなければ、みんな不安だ」という首相の指示のもと、復興庁は3月に被災自治体ごとに住宅再建スケジュールを示す「住まいの復興工程表」をまとめた。

 国が主体的に住宅再建計画に関わっていく仕組みで、2015年度までに復興住宅を1万9200戸つくる目標だ。根本匠復興相は復興庁の幹部ら一人ひとりに担当する自治体を決め、再建状況をきめ細かく把握するよう指示。復興を目に見える形で示そうとしている。

 自民党の参院選公約に盛り込んだ政権の実績の中では「復興加速に必要な予算を確保した」と明記。一方で、国土強靱化法案などを国会に提出したことも「国民の生命を守る」成果として並べている。

 この法案は今月24日、衆院災害対策特別委員会に付託された。国会は26日に閉会したが、法案提出に尽力した自民党の二階俊博総務会長代行は党の会合でこう訴えた。「選挙でいろんなところで発言の機会があるでしょうが、国土強靱化に一層のお力添えをお願いしたい」

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