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(安倍政治を問う)アベノミクス、果実どこ 円安→増産、求む期間工

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アベノシズクはどこまで落ちる?

 【山村哲史】広島市の歓楽街、流川(ながれかわ)にあるお好み焼き店「徳川総本店」では今年に入り、レジ前の募金箱に千円札が入ることが増えた。「心の余裕が出てきたのかな」と店長(33)は感じる。

 広島市とその周辺は大手自動車メーカー、マツダの企業城下町だ。市内には年間51万台を生産できる本社工場があり、広島県内で自動車関連産業で働く人は6万人を超える。

 半年前まで、マツダは輸出でのもうけがふき飛ぶ「超円高」に苦しみ、4年続けて赤字に陥っていた。ところが、安倍政権になって円安が進むと、輸出が息を吹き返し、今年3月期決算では黒字に転じた。

 春闘では夏冬合わせたボーナスが平均133万円になり、昨年の101万円から大きく増えた。管理職の最大10%の給与カットも5月からもとに戻った。

 「入社祝金10万円」。広島市内の求人誌に誘い文句が並ぶ。マツダの求人広告だ。県内では、自動車関連で新たに働き手を求める求人数は、4月まで7カ月続けて前年より増えた。

 しかし、マツダが募っているのは、6カ月〜3年間に限って雇う「期間従業員」だ。長く働けない「不安定雇用」の人たちがマツダの増産を支えている。

 広島県東広島市の「豊テクノ」は、マツダ向けに変速機の部品などを加工している。今は24時間態勢で新型車向けの生産が続く。

 秋からの増産をにらみ、3千万円ほどかけて新しい加工機械も入れる。だが、72人の従業員は円高だった1年前より11人少ない。

 「自動車メーカーの目は海外に向いている」。梶山剛史専務(40)は将来への厳しい見方は変わらず、従業員を簡単に増やせない。

 衆院総選挙さなかの昨年12月、自民党の安倍晋三総裁は街頭で熱弁をふるった。「円高を是正し、経済を成長させる。国民の収入を増やす。頑張った汗が報われる経済を取り戻す」。そんな訴えが響き、自民党は政権に返り咲いた。

 確かに安倍政権は経済政策「アベノミクス」で日本銀行に金融緩和を促し、円安・株高の流れをつくった。自動車メーカーは過去最高の利益をあげ、従業員のボーナスも増えた。

 まず大企業や株式を持つ資産家をもうけさせ、そのお金が下請け企業や小売店、働き手、地方へと回っていく。「トリクルダウン(滴(しずく)が落ちる)」と呼ばれる手法だ。その滴は多くのくらしを潤すだろうか。

 ■増えぬ雇用、地方ため息

 「お疲れさまでした」。今月20日、秋田県にかほ市の板垣工業で、高橋隆専務が解雇する従業員24人に声をかけていた。

 電子部品メーカー、TDKの工場で生産の一部を担ってきた。だが、3月で契約が打ち切られ、従業員の8割にあたる約120人を順々に解雇しなければならなくなった。

 にかほ市はTDK創業者の故郷で、市内と周辺に15工場が集まる企業城下町だった。ところが、秋田県内の6工場を来年3月末までに閉じることになった。この数年の円高による業績の悪化が原因だった。

 秋田県産業政策課によると、昨年以降、TDKが主な取引先だった中小企業を解雇された人は約670人になる。このうち3割は今も再就職できていない。

 JR仁賀保(にかほ)駅前に人影は少ない。食料品店を営む女性(53)は「高級品が売れているというニュースが信じられない」。市内で食堂店を営む女性(61)も「TDK社員がばったり来なくなった」とため息をつく。

 TDKは安倍政権になってからの円安で今年3月期決算が前年の赤字から黒字に転じた。にかほ市でも、閉まるはずだった2工場が今も動く。だが、閉鎖が撤回されたわけではない。

 TDKはすでに海外での生産が8割を占める。たくさんの部品を買ってくれるテレビやスマートフォンの工場が海外にあるからだ。

 電機メーカーはここ数年の円高や人件費の安さから、工場の多くを海外に移してしまった。国内で売っているスマホもほとんどが海外から輸入されている。国内に大きなテレビ工場を持つシャープやパナソニックも赤字に陥り、海外に目を向ける。

 電機メーカー幹部は言う。「円安だからといって、今や国内に工場をつくることは考えられない」

 多くの雇用を生む工場が建たないと、地方経済は潤わない。アベノミクスは金融緩和に続く「第2の矢」である財政出動で公共事業を増やしたが、いつまでも続けるわけにいかない。

 安倍政権は今月、「第3の矢」である成長戦略をまとめた。だが、そこには大都市の経済や大企業を潤わすメニューばかり並ぶ。

 地方や働き手にどう「滴」を落としていくか。その道筋はみえないままだ。

 ■識者はどう見る

 山田久・日本総研チーフエコノミスト アベノミクスの成長戦略は、企業など「供給側」の発想に立っており、家計の収入を増やしていく道筋がみえにくい。賃金を上げるには、首相直属の「政労使協議会」をつくり、経営側は「賃上げ」、労働組合は「雇用の流動化」をそれぞれ受け入れ、政府は転職支援や失業した人の安全網強化を約束する「三者合意」を実現しなければならない。

 新藤宗幸・千葉大名誉教授(行政学) 安倍政権の政策は、都市と地方の格差を広げる「新自由主義」と、地方に公共事業を配分する「古い自民党」がまざっている。だが、公共事業は地方経済の足腰を弱めるだけ。地域の創造力を評価し、知恵を出している農業、優れた技術を持つ中小企業を金融面で支援したり、介護や健康づくりの分野で新しい産業を育てたりする取り組みが必要だ。

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