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現場の声とデータから見る低反発バット 「飛ばない」は本当か?

2024年4月2日07時00分

朝日新聞DIGITAL

 高校野球は、新たな時代に入った――。

 健大高崎(群馬)の初優勝で幕を閉じた第96回選抜大会は、反発性能を抑えた新基準バットに変わって最初の大会だった。

 飛距離が落ち、ゴロの球足も遅く見えた計31試合。データや選手らの声から、その変化に迫る。

 新基準のバットについて、選手から聞こえてきたのは「打ち上げてしまうと失速する」という声だ。

 打った瞬間はいい当たりに見えても上空で失速し凡打になる場面が多かった。実感でいえば、フライは安打になりにくい――ということだ。

 それを裏付けるデータがある。フライ軌道の打球に占める安打の割合を見ると、今大会は24%。コロナ禍前で、試合数が同じだった第91回(2019年)の28・4%より4・4㌽下がっている。ここ5大会で最も低い。

 当然、本塁打も減った。

 わずか3本で、うち1本はランニング本塁打。いわゆる「柵越え」は2本しかなかった。1975年の金属バット導入後、選抜では最少だ。

 3月19日の1回戦・阿南光(徳島)戦で、右翼ポール際に新基準バットの第1号本塁打を放った豊川(愛知)のモイセエフ・ニキータは「芯で捉えれば飛距離はそこまで変わらない」という感想を残した。

 ただ、「芯で捉える」こと自体が難しくなった。その一因が、最大直径が3ミリ細くなったこと。その点への対応を重視したのが神村学園(鹿児島)だ。

 自身も実際に打ってみたという小田大介監督は「意外に飛距離が出る」。むしろ「細さが気になった。わずか3ミリだけれど、引っかけたり、こすったりした打球が多くなった」という。

 例年なら冬は木製バットも使って鍛えるが、細さに慣れさせるため、この冬は新基準バットだけで練習した。

 22日の1回戦、作新学院(栃木)戦では4番正林輝大が右翼席へ大会2号ソロ。チームとしても強い打球が多く、新しいバットに適応できている印象だった。

 芯で捉える必要があるという特性は、木製バットと同じだ。あえて木のバットで臨んだ選手もいた。

 3試合を戦った青森山田の3番・対馬陸翔と5番・吉川勇大。敗れた準々決勝の九回はこの2人の安打で1点を返した。

 吉川は「低反発バットを使うみんなの練習を見て、自分は木製の方が飛ばせるなと思った。金属と比べて、伸びがすごくある」。

 対馬は「金属バットだと、引っかけ過ぎたり無理やり引っ張ったりというのがあった。そこはしっかりやれたので」と手応えを口にした。

 2人は、引き続き木製バットを使う考えだ。

(データ協力・データスタジアム)

 ■新基準バットとは

 新基準のバットの直径は、従来より3ミリ細い最大64ミリ未満になった。一方、打球部の金属は1ミリ厚くし、反発力を抑えた。日本高校野球連盟による実験では、従来型のバットより反発性能が5~9%減少、打球の初速も約3・6%減少した。

 新基準バットは投手のけが防止などのために導入された。2019年の全国選手権で投手が顔面に打球を受けて、ほおを骨折。過去の練習試合では、投手に打球が当たって死亡した事故もあった。今回の基準変更によって、投手へのライナー性の打球速度も抑えられるという見立てだ。

 2月下旬、金属バットの製造工場を見学した高野連技術・振興委員で高校日本代表の小倉全由監督は新基準バットの形状や芯の大きさを踏まえて、「木製バットに近くなる」と語っていた。

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