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「被災地に勇気を」「悔いのないプレーを」星稜の山下元監督がエール

2024年3月18日17時00分

朝日新聞DIGITAL

 能登半島地震で被害が大きかった石川県から、18日の大会第1日に星稜が登場した。元監督の山下智茂さん(79)が現在指導している、同県立門前高校の野球部員も被災した。「震災で野球をやりたくてもできない選手がいる。全力で一生懸命、被災地に勇気や希望を与えるプレーをしてほしい」。星稜の選手たちにエールを送った。

 元日夕、金沢市の自宅にいた山下さんは、家が縦横に大きく揺れるのを感じた。テレビをつけると、生まれ育った輪島市門前町が映った。あちこちで家屋が壊れていた。

 道路が寸断されるなか、門前町に戻ってこられたのは1月末。大好きだった寺は崩れ、一番親しかった友人は家族を助けた後、自宅が倒壊して亡くなったと聞いた。

 「疲れた時は帰って、ほっとできる町だった。当たり前のことが、当たり前ではなくなった」。食べ物がのどを通らず、体重は5キロ落ちた。

 監督として春夏通算25回の甲子園出場経験がある山下さんは2022年、輪島市からの依頼で、1期生として通った門前高校の野球指導アドバイザーになった。

 野球部を「地域おこし軍団」と呼び、部員らは地域行事や住民の自宅前の除雪などに積極的に参加した。練習試合には観客席が埋まるほどの住民が駆けつけるなど、地域と信頼関係を築いてきた。

 発災から2カ月余りたった今も、倒壊した家屋が目立ち、野球部を応援してくれる多くの住民が避難所生活を送る。40人いる部員の大半は避難し、寮に戻った3人は、避難所でボランティアなどをしながら生活しているという。

 高齢者を背負って高台まで避難したり、自衛隊のボランティアに加わったりした部員もいたと、住民から聞いた。「あの子たちがやってくれてるから、私も頑張らないかんね」。住民たちの言葉は深く心に刺さった。

 山下さんは星稜の監督時代に比べ、あいさつやボランティアを通じた「人としての成長」に指導の重きを置いてきた。「その先に野球の成長がある」。震災を経て、部員たちの目つきや顔つきが変わったようにみえる。

 「人生雲外蒼天(そうてん)」。選手たちにいつも話している言葉だ。いつかいいことが訪れるから、地震という困難に耐えてがんばろう、と伝えている。

 今月10日、山下さんと各地に散らばった部員らは、石川県志賀町にある球場に集まり、震災後初めて、屋外で練習することができた。幸い、高校のグラウンドは亀裂などがなかったが、いまだに断水が続いている。

 監督を長らく務めた星稜。震災後、練習中の選手を訪ねたこともあるという。

 星稜は18日の第2試合で21世紀枠の田辺(和歌山)と対戦。終盤に勝ち越し、2回戦に進んだ。「一時はグラウンドが使えず、被災した選手もいると聞いている。それでも前を向いて元気に練習する姿を見ていた。悔いのないプレーをしてほしい」(原晟也)

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