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2012年12月6日10時58分

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〈仕事のビタミン〉岩田弘三ロック・フィールド社長11

写真・図版

岩田弘三(いわた・こうぞう)1940年生まれ、兵庫県出身。65年に料理店「レストランフック」を開業。72年に総菜事業を手がけるロック・フィールドを設立し、サラダを中心に据えた高級総菜販売店「RF1」をデパ地下や路面店で展開する。伊藤菜々子撮影

■アイデアのつくり方

 私はよく歩くことにしています。

 健康のためもありますが、座っていると整理できない頭の物事が、散歩していると不思議とまとまるからです。

 長いときで2時間。歩きながら、ポケットから取り出すのは愛用のiPhone(アイフォーン)。ボイスレコーダー機能をオンにして、考えていることを吹き込む。会社の進むべき方向性について熟考するときもあるし、新しい商品の発想がふっと浮かぶときもある。再生すると息が上がっていて、聴き取りにくいこともあるのだけど。

 「消費者は形にしてもらうまで、何が欲しいかはわからない」とはスティーブ・ジョブズの言葉です。メーカーにとっても「消費者の欲しいもの」を具現化するのは難しいこと。でも、ヒントは日常のあらゆるところに隠れている。だから私は、さまざまな現場へ足を運びます。

 多いのはRF1も出店している百貨店。食品フロアだけじゃなく、洋服の売り場も見ます。流行の色や、若い人の感性がそこから学べる。

 食品街では最近、青果売り場に注目していますね。おもしろいですよ。野菜は食べやすくカットされていたり、蒸してパックで売られていたり。これなら、独身や二人暮らしでも、食べやすいし、食べきれる。ううむ、時代のニーズをとらえている。

 こういう店との競争も始まっているんだなと、ちょっと焦ります。数種類の新鮮な果物を切ってパックしたものを「パフェ」と提案している青果売り場は、ケーキ店の競合になるでしょう。業態の境目は、どんどん無くなっている。

◆冷蔵庫で見通すライフスタイル

 家電量販店にもよく行きます。垣間見えるのは、人々のライフスタイルです。

 特に興味深いのが冷蔵庫。その変化から、日本人の食生活の変化がわかる。かつては冷蔵と冷凍の2ドア。冷凍庫には製氷用の型枠があったシンプルなものだった。

 ところが、食卓に冷凍食品が台頭してくると、冷凍庫は冷凍食品用と製氷とアイスクリーム用との三つのドアにわかれた。冷蔵庫も、ワインを収納できる棚ができたり、保温機能を備えたものができたり。洋風化が進む食卓や、遅く帰宅する家族を待つ食卓が想像できますね。

 未来の姿も想像します。先に述べた通り、いま百貨店やスーパーの青果売り場は、小分けされたカット野菜を売っている。大根一本まるまる買う家庭は減り、カット野菜をわかりやすく入れられる冷蔵庫に変わっていくのだろうな、と思ったりします。

 ふと、ここで考えます。では我々の総菜は、どういう形でその冷蔵庫に収まるのか。その景色まで描くところに、アイデアの種があります。

◆五感で探る価値

 先日、東京・代官山にある「蔦谷(つたや)書店」訪れました。レンタルDVD店を手がけるツタヤが、団塊の世代に向けた「TSUTAYA」を探る取り組みだと聞きました。敷地には、バーやペットショップが併設され、散歩がてら立ち寄った大人たちが、犬を外につないでコーヒーやワインを楽しんでいました。これからの日本人の理想的なライフスタイルに思いを巡らせている施設だと感心しました。

 消費者は何が欲しいかわからないけれど、一つ思うのは、「価値」を五感で感じ取ろうとしていること。だから、私も五感を大事にします。

 11月下旬、JR東日本の商業施設「ルミネ」が毎年開催する、販売員の接客力を競うコンテストと表彰式をのぞいてきました。接客で最も人に感動を与えた販売員として表彰された女性は、スポットライトを浴びながら感激で涙を流していました。その場にいた人もみんな心に響くものがあったと思います。

 インターネットの時代です。楽天やアマゾンなど、ウェブを使ったオンラインの買い物利用者が増えています。高齢化社会になれば、宅配の役割はもっと大きくなることは間違いない。ロック・フィールドも、いずれ宅配に挑戦するときが来るでしょう。ウェブには可能性が広がっています。

 しかし、表彰式で涙に触れたとき、本来目指したいサービスというのはリアルな場にあるなと感じました。リアルな場だからこそ、客と感動を共有できる。そこをもう一度、大事にしたい。

 方々に足を運び集めたアイデアの種から、将来の商品やサービスを形作る芽が出ます。日本の食卓を彩る芽です。発芽させ、育てるのは私や社員たち。気概をもってがんばります。(聞き手・和気真也)

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