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2012年10月4日10時54分

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〈仕事のビタミン〉小方功・ラクーン社長:8

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小方功(おがた・いさお)1963年生まれ、北海道出身。北大工学部を卒業後、大手建設コンサルタント会社勤務。起業を目指して脱サラし、93年に現在の「ラクーン」を創業する。衣類や雑貨のネット問屋というビジネスモデルで06年に東証マザーズ上場。竹谷俊之撮影

■「知の断食」のススメ

 少し前の話ですが、神奈川県の相模大野駅前にあるバーのマスターから、店を人に譲って引退するという連絡がありました。

 そのバーは私が20代後半、起業を決意する直前まで通ったバーでした。今回はこのバーにも絡む話をしましょう。

 30歳前後って、私は人生にとってちょっと特別な時期ではないかと思っています。子どものころ保健体育で習ったところでは、人間が自我に目覚めるのに必要な反抗期は、第1期が2〜4歳ごろ、第2期が中学生ぐらいでやってくる。第1期の方はさすがに覚えていないが、第2期は確かにそうだったと思う人も多いでしょう。

 保健体育の教科書にあるのはここまでですが、私はひょっとして人には「第3期反抗期」があるのではないかと思うのです。その訪れが30歳前後。会社に入って一通り仕事を覚えたころ、「俺って何なんだろう」とふと思う。

 「みんな俺のことどう思ってるんだろう」「俺がいなくなったら困るのか」「俺はいったい何を要求されてるんだ」「俺って何ができるんだ」と。社会人としての折り返し地点と言うにはちょっと早いですが、このまま先に進んで良いのか悩む時期がやってきます。

 私はそうでした。

 30歳で中国留学したことを知ってる人からは、「ああ、それで自分探しの旅に出たんですね」なんて言われます。違います。自分なんて旅先で探しても、見つからない。このまま先に進んで良いのかという問いは、外部に答えを求めても、知識が増えるだけ。本を読んだり人に会ったりすれば、刺激やヒントを得られるでしょう。でも、答えは自分の内面に向き合って導き出すしかないんです。

◆一人になるためのバー

 それには、どうすれば良いか。1日30分、自分のことを考える時間をつくることです。

 このとき大事なのは、テレビや電話やパソコンから離れること。これらは考え事をするときのノイズになる。でも、現代の家の環境だと意外とそれが難しかったりするでしょう。家族がいればなおのこと、家で一人になるのは難しい。そこでお勧めするのが、会社と家の間にバーを見つけることです。誰かに会ったり友達を増やしたりするためではなく、一人になるためのバーです。

 そうですね、できればチャージ料もいらずに1千円ぐらいで飲めるところ。30分、好きなお酒を飲みながら1日を思い返して、誰かに言われたことや、やり損ねたことを思い起こす。同時に、明日がどういう時間か、何をしようかを考える。

 ボーッと考えれば良い。繰り返していると、何か心の芯みたいなのが見えてくる。言ってみれば「禅」みたいな時間ですかね。冒頭に紹介した相模大野のバーは、私にとってそういう場所だった。私は「知の断食」と呼んでいますが、日々の思考を整理するうちに、自分はこのまま会社勤めをするのではなくて、起業してみようと決意したのです。

◆白い紙と鉛筆

 起業直後もまた、一人になる時間は必要でした。今度は、ボーッとするというより創造力を鍛えるため。アイデアをひねり出す時間です。毎晩、白い紙と鉛筆だけ用意して、思いつくことを書き出す時間を持ちました。

 事実を探しに行くときにインターネットは便利です。でも、無から有を生み出す創造力を必要とするときに、キーボードは危険。カチャカチャやって検索の合間に面白そうなニュースが目に入っちゃったら、創造なんてしていられない。ノイズになるとはそういうことです。

 誤解しないように言いますが、若いうちは出会いも多い方が良いし、読書もインターネットもした方が良い。

 ただ、24時間やり続けてはいけない。電車の中でもラーメン屋でも、携帯電話を取りだしてネットやメールを見るのが当たり前になってしまった時代。現代人は、24時間ひたすらインプットしていないと幸せじゃない、豊かじゃないと思っている節がある。

 「知の断食」は、慣れれば日常の中に取り込めます。むしろ、日本人の日常には自然とあった時間です。例えば東京から大阪への出張する新幹線の移動時間。私は会社の方針から部下への指示まで、あらゆることを思いついては手帳の余白に書き込みます。雑誌を買いそびれたと途方にくれることはない。

 新幹線で人生を変える2時間半を手に出来るかもしれませんから。(聞き手・和気真也)

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