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2012年9月7日10時41分

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〈仕事のビタミン〉飯島彰己・三井物産社長:3

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飯島彰己(いいじま・まさみ)1950年生まれ、神奈川県出身。横浜国大を卒業後、74年三井物産入社。金属・エネルギー総括部長、鉄鋼原料・非鉄金属本部長を経て、09年から社長。経営企画などの経験はなく、金属畑からトップに。竹谷俊之撮影

■海外ビジネス、最後は「人」対「人」

 国境を越えるビジネスが企業の業績を左右する時代において、企業トップが各国首脳との関係を構築、維持することの重要性が増しています。

 社長に就任してからは、ビジネスに関係する各国の元首たちと交流を重ねていますが、何を目的に、どのように面談して、何を話しているか。実際のところどうなのか、とよく質問されます。

 話す内容は毎回違うのですが、一貫していることは、当社がビジネスを展開するホスト国の発展に貢献でき、喜ばれる仕事をつくりたいという理念を伝えること。そして、「そのために何ができるか」という視点で話をすることです。

◆書類は見ず、目を見る真剣勝負

 元首たちに会って気づくのは、ものすごく勉強していることです。面会の時に資料などは一切見ません。ビジネスモデル、具体的な数字など事前に相手の情報を正確に把握し、あらゆる角度から分析を済ませています。

 私自身も、数字を含めてその国との関係をあらかじめ確認し、面談では書類を一切見ないようにしています。真剣勝負です。

 特に印象に残っているのは、ロシア大統領のプーチン氏です。当社は、サハリン州の巨大資源開発プロジェクト「サハリン2」に、20年以上前の立ち上げ時から参画するなど、積極的にロシアでビジネス展開しています。

 2010年10月。私はモスクワで開催されたロシア政府の外国投資諮問会議に出席し、首相だったプーチン氏と個別に面談しました。予定時刻から30分ほど待ってから始まりました。プーチン氏は書類を全く見ないで、私の目を見て話し始めました。眼光は鋭く、表情は変わらない。その入念な準備に驚き、トップの迫力を感じました。

 プーチン氏は「こわもて」という印象があるかもしれませんが、実際に会うと、そんなことはありません。目を見て語り合い、おのずと意気投合し、ミーティングは予定よりかなりオーバーしました。プーチン氏は、当社の40年にわたるロシアでの事業活動に謝意を示すとともに、「サハリン2」の推移を高く評価してくれました。資源開発、インフラ、鉄道分野などの協業について、しっかり意見交換出来ました。

 その前年に約30社のグローバル企業の首脳と一緒にプーチン氏と会った際には、予定時刻が1時間半ほど変更されました。後から聞いた話ですが、関連する現場を視察したためでした。プーチン氏の徹底した現場主義を実感した機会となりました。あれだけ広い国なのに、常に自分の目を通して把握しているのです。プーチン氏は、部下の報告に頼ることなく、肌感覚を持って話をしているのがわかりました。

 私も、物事を判断するにあたって、必ず現場に足を運ぶようにしています。製造業でよく言われる「現場」「現物」「現実」の三現主義は商社にとっても重要です。机上の空論に頼るのではなく、現場に出向き、自らの肌で感じることがビジネスの基本です。

◆ビジネスは日本も海外も変わらない

 商社マンとしての経験からいえば、ビジネスは日本も海外も変わりません。最終的には「人対人」の関係ですべてが決まります。

 では、どうすれば、相手の信頼を得られるのでしょうか。それは、自分の持っているもの、自分の引き出しを出来るだけ増やして、いかに相手とギブ・アンド・テークが出来るかに尽きます。そのためには、現場経験を積み重ねることが大切です。

 その上で、相手とは回数を重ねる交渉で「Face to face」の関係を地道に構築していく。これは、企業のトップも、政治家も同じだと思います。

 チリのピニェラ大統領とは、過去1年で3回も会いました。先月、大統領府にて面談した際は、当社がチリ向けの投資を倍増させることから話が始まりました。チリへの貢献の中身について話を終えると、「いつ帰国するのか」と聞かれました。「晩に帰ります」と答えると、「まだいてくれたほうがよい。僕の力で延ばしてさしあげようか」。そんな冗談も飛び出しました。コーヒーを飲みながら信頼関係が深まったことを実感しました。

 先月は、ブラジルのルセフ大統領とも面談しました。実務派と言われるだけあって、当社のビジネスを細かく把握していました。ブラジルが抱える課題、当社への期待などについて極めて明確なメッセージをいただきました。当社は何ができるか、真摯(しんし)にお話しし、様々な考えを共有できました。30分の面談は、気づくと1時間を超えていました。やりとりを通じ、「ブラジルでのビジネスをもっと強化する」ことを確信しました。

 海外での商売・投資にリスクはつきものです。カントリーリスク、与信リスク、相場リスク、為替リスクなど、様々です。

 企業の競争力は、こうしたリスクへのノウハウをどれだけ蓄積しているかが、大きく影響します。三井物産には、過去の失敗から得た「暗黙知」の教訓を「形式知」として社内で共有する仕組みがあります。失敗経験を機能に進化させ、前に進むことが大切です。

 ただ、繰り返しになりますが、最後の決め手はお互いの信頼関係です。海外ビジネスの大前提は、「この人ならば、リスクをとってもいいだろう」と思える関係を構築できるかどうかにかかっているのです。(聞き手・鳴澤大、古屋聡一)

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