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2012年6月14日10時13分

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〈仕事のビタミン〉岩田弘三ロック・フィールド社長:1

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岩田弘三(いわた・こうぞう)1940年生まれ、兵庫県出身。65年に料理店「レストランフック」を開業。72年に総菜事業を手がけるロック・フィールドを設立し、サラダを中心に据えた高級総菜販売店「RF1」をデパ地下や路面店で展開する。伊藤菜々子撮影

■日常に広げる総菜の役割

 東京スカイツリーが5月に開業しましたね。足もとに広がる商業施設の東京ソラマチに、ロック・フィールドも洋総菜の「RF1」、「神戸コロッケ」、野菜ジュースの「ベジテリア」の3ブランドの店を出しました。

 神戸コロッケの目玉は「深川めしのライスコロッケ」。アサリのだし汁で炊きあげたご飯に、むき身のアサリとソテーしたネギを包みこんでサクッとあげます。どうです? おいしそうでしょう。

 いま目指しているのは、これをお客様に、日ごろ世話になっている人へのちょっとしたお土産として買っていただくことです。例えばご近所さんとか、近くに住む親戚とか。お土産というとお菓子と思われがちだけど、それを総菜でやれば「今晩のおかずが助かるわー」「これでワインでも飲もうか」ってなる。

 よく漫画「サザエさん」の中で、酔ったマスオさんがすし折りを持って帰宅するシーンがあったでしょう。あれ、「家(いえ)づと」と言って、家庭に土産を持ち帰る文化が日本にはあったんです。震災があって、人のつながりが見直されているいま、そういう買い方の提案もできれば、日常の中でのお総菜の役割も増えてくるのではないかと思うんです。

◆企画開発に近道なし

 我が社はものづくり会社。顧客にどういう価値を提供するか、企画開発力が問われます。でも、近道はない。愚直に考えて、作って食べてを繰り返しながらやり抜くことやと思います。

 私の場合、レストランで食事をしていても、町を歩いていても、おもしろいものを見つけたら携帯電話のカメラでぱちりと撮ります。食べ物に限らず、ファッションとか雑誌に載っている宣伝文句なんかにもヒントは隠されている。ときどき妻や子どもに「お父さん、またぁ」とあきれられたぐらい。最近はみんな協力的やけどね。

 そういうのを積み重ねていると、ふっと見えてくる瞬間がある。

 例えば自社工場を歩いていて、熟練の職人が包丁で野菜を見事な速さと正確さでカットしている。

 すごいなぁ。でも、よく見ていると、ヘタの方を実がついたまま捨ててる。1日ではけっこうな量になるなぁ。あれをみじん切り野菜に生かしたらどうかなぁ。おいしいだけじゃなく、資源を大事にできる。そうだ「地球に優しいサラダ」ができる。それを食べるお客さんは、おいしいだけじゃない笑顔になれるんじゃないかな、とかね。

 私はスティーブ・ジョブズが大好きですが、彼は「何が欲しいのかを考えるのは消費者ではない。人は形にして見せてもらうまで、自分は何が欲しいかわからないんだ」と言った。ピーター・ドラッカーは「企業経営の目的は顧客の創造だ」と言った。

 少子高齢化で売り上げがどんどん伸びる時代ではなくなったけれど、まだまだ市場は広げられるんやと思います。

◆パラダイムシフトを見極めろ

 この5月から、ロック・フィールドは41期目に入りました。本当は、今後5年で進む方向を掲げる新しい中期経営計画を発表するはずでした。でも、やめたんです。この1年を、未来の計画を立てる充電期間にしようと決めた。

 3・11の東日本大震災が起きました。原発問題が浮上し、日本人の価値観が問われ、消費者の志向も変わる。もともとの少子高齢化という流れもある。パラダイムシフトが起きている。そこに目をこらし、客とマーケットを直視する期間です。これまで「足踏みしたら後退するぞ」と言い続けてきたけど、今はあえて足踏みする。それがきっとチャンスにつながる。

 同時に今まで歩んできた40年を振り返ることにもなります。創業当時の日本の風景はいまと全く違いました。料理も掃除も洗濯も、裁縫も子育ても、すべて家庭内にあって、特に母親や祖母ら専業主婦が担う時代でした。それから女性の社会進出が進み、色んなものが機械化されて、アウトソーシングされてきたのがこの40年です。

 私たちは総菜市場に挑戦し、消費者の支持を得ることができました。すべての始まりは47年前に私が神戸市内に開いた小さなレストランからでした。

 次回はそこから始めましょう。

(聞き手・デジタル編集部 和気真也)

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