〈仕事のビタミン〉佐藤茂雄・京阪電鉄取締役会議長:1

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佐藤茂雄(さとう・しげたか) 京大法学部卒業後、1965年に京阪電気鉄道に入る。社長、最高経営責任者を経て2011年から取締役会議長。大阪商工会議所会頭。大分県臼杵市出身。70歳。伊藤菜々子撮影

■企業家の言葉、政治家よ学べ

 日本人は創業と守成はどちらが困難かという論議が好きだ。どちらかというと守成の方が難しいという意見が多いのに対して、絶えず創業の精神を発揮しているからこそ守成があるのであって、創業の方が難しい、と私は主張する。

 政治の未熟さが手伝って、この国は展望を開けないでいる。大地震、原発事故、水害、そして為替レートは超円高に張り付いたままだ。国難を打開する突破力が必要にもかかわらず政治が安心、安全、繁栄の青写真を示せないのなら、ここは民の底力を示す時だ。

 工場移転先を海外に求めるのは、日本に富をもたらすための当然の動きと言えよう。大阪商工会議所の3年間のビジョン「千客万来都市OSAKAプラン」も、アジアの成長を取り込み、共に歩むことをうたっている。

 いつの時代も大阪の事業家は創意工夫し、あふれる創業の精神で困難を克服してきた。大阪市中央区の大阪企業家ミュージアムを訪れるがいい。近代大阪の経済を再生させた五代友厚がいる。伊藤忠兵衛、松下幸之助、鳥井信治郎ら時代を築いた大阪の経営者群像が並ぶ。全体像から分かることは、政治に依存しない姿勢を貫いていること、民の底力を発揮して大阪、日本の繁栄を築いたことである。根底には国の繁栄を導こうとする自立自助の精神がある。

 コーナーには経営者の名言も掲示されている。一つを紹介する。昭和初頭、小エネルギーで動く効率的な小型ディーゼルエンジンを世に送り出した山岡孫吉。そのモットーは「燃料報国」。石油資源に乏しい日本の国益を考えた開発だった。

 珠玉の言葉が並ぶ企業家ミュージアム。企業の社会的貢献を念頭に、心血を注いだ経営があってこそ生まれた含蓄ある名言ばかりだ。演説が生命であるはずなのに、軽くてお粗末な言動の当今の政治家に、ぜひ企業家ミュージアムに来てもらいたい。きっと言の葉には霊(たま)が宿るものであることが分かるのではあるまいか。

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