〈塚田真希〉五輪の街で、余裕のない人になりたい

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ロンドンに向け出発する塚田真希さん=7日午前、成田空港

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見送りの関係者に手を振りながらロンドンに出発した塚田真希さん=7日午前、成田空港

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「留学が終わるのは2年後。そのときの自分は想像できません」と語る塚田真希さん

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「オリンピックの時期にロンドンにいられる。これも運命かなあ」と話す塚田真希さん

■ロンドン便り

 余裕がない人って、かっこ悪いと、皆さんは思いますか?

 そんな人こそ、かっこいいと、私は最近、思うんです。

 余裕がないということは、つまりは一生懸命なんだと思うんです。周りが見えなくなるぐらい、何かに夢中になって、必死に取り組んでいるということではないでしょうか。

 昨年9月に東京で開催された世界柔道選手権を最後に現役を退いた後、3カ月ほどは完全に柔道を離れてALSOK(綜合警備保障)の社員として仕事に打ち込みました。その中で気づいたのは、私ってやっぱり柔道が好きだなあ、ということ。そして、柔道をしている人が好きだということでした。

 もちろん、柔道家にも色んな人がいます。正直に言うと、私にも合う人、合わない人がいました。ただ、ほとんどの人が目標を持ち、その実現のために毎日を必死で生きています。

 柔道に限ったことではないでしょうが、みんな、とにかく余裕がないんです。

 練習はそれはそれは苦しくて、私も何度も逃げ出したいと思いました。でも、自分の人生だと思って柔道をやってきた。必要不可欠なものだと思って、柔道に取り組んできました。

 そんな感じだから、今から振り返ると、私も現役時代は余裕がなかったと思います。

 一般的には、余裕のある人がかっこ良く、ない人はかっこ悪いと考えがちですよね。でも、本当にそうでしょうか。

 「あいつはキャパがないんだよ」なんて言う人もいるけど、余計なお世話でしょう。キャパシティーがないんじゃなく、その中をいっぱいにするぐらい打ち込める何かを持っているんですよ、きっと、その人は。

 もちろん、それで周囲に迷惑をかけるようなことがあってはいけません。そうじゃなければ、その人を他人が馬鹿にしたり、笑ったりしてはいけないと思います。余裕がなくなっていることを自分自身で分かっていれば、なおいいんでしょうが、なかなかそうはいかないですからね。

 私はいま、余裕がない人を見ると、拍手を送りたくなります。

 7日に日本を離れ、ロンドンに来ました。日本オリンピック委員会(JOC)のスポーツ指導者海外研修員として、2年間の予定で現地の柔道事情や指導法などを学ぶ予定です。しばらくはホームステイし、英語学校にも通います。

 ロンドンと言えば、来年夏にオリンピックが開催されます。こんなに素晴らしいタイミングはないと自分でも思います。自分自身の成長はもちろんですが、少しでもオリンピックに出場する日本選手団のお役に立てる存在になれるように、がんばって勉強したいと思います。

 柔道場にも、もちろん通います。ナショナルチームの練習にも参加する予定です。その中でアドバイスを求められれば、出し惜しみしないで、私が持っているものをどんどん伝えていきたいと思います。

 そうやって考えると、私はロンドンで、また余裕がない人になれるかもしれません。そんな私をイギリスの人たちが温かく迎えてくれるといいなあ、と願っています。

    ◇

 つかだ・まき 1982年1月、茨城県下妻市生まれ。柔道の女子78キロ超級で2004年アテネ五輪金メダル、08年北京五輪銀メダル。体重無差別で柔道日本一を争う全日本女子選手権では、男子の山下泰裕さんと並ぶ9連覇を達成した。中学で柔道をはじめ、土浦日大高―東海大を卒業し、ALSOK所属。講道館女子4段。9月からJOCスポーツ指導者海外研修員としてロンドンに滞在している。

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