2011年9月24日00時38分
地震で家屋が倒壊してもつぶされず、津波に流されても水に浮く――そんなユニークな球形シェルターを神奈川県平塚市の町工場が開発した。その名も「ノア」。今月、ようやく量産態勢が整ったばかりだが、発売前から予約が相次いでいる。
開発したのは、水圧を利用した発電機など「エコ商品」の研究・開発を手がける「コスモパワー」。従業員10人の町工場だ。
「ノア」は、軽くて丈夫な繊維強化プラスチック(FRP)製。直径1.2メートルの中は、中心の捕まり棒を囲んで大人4人が座れる。重さは70キロほどで、庭にも室内にも置ける。価格は、28万8千円から。直径1.5メートルの6人乗りや、2.5メートルの12人乗りも製作する予定だ。
ガラス繊維が練り込まれたFRPは船舶やヘルメットなどに使われるほど丈夫だが、球形にすることで、より強化された。底の部分に水を入れておけば、津波などで流されても重心が安定して浮くという仕組みだ。救助の際に目立つよう、黄色に塗装。外の様子がのぞける小窓もある。上部2カ所には空気孔も。
田中昭次社長(66)が4年前、ゲリラ豪雨や台風による水害対策として発案。アイデアをホームページ上で公開していた。東日本大震災後、問い合わせが殺到し、急きょ製品化することに。4月に試作機を完成させた。
試作機では100キロの鉄柱を落とす衝撃実験や、10メートルの高さからの海上への投下実験をしたが、変形や浸水はなかったという。量産1号機は今月5日に出来たばかり。専門機関の強度テストにかけており、近く結果が出る見込みだ。実際に人を乗せた実験も計画している。
◇
ノアの注文は、すでに500件に及ぶ。
藤沢市の主婦桜庭千里さん(78)は、納入を心待ちにしている一人だ。夫(86)と2人暮らし。自宅は海から離れているが、築40年。震災後は、地震で倒れるのではと気が気でなくなった。
寝室だけでも耐震補強しようと考えていた時、シェルターの存在を知り、「補強工事よりずっと安い」と気に入った。寝室に置き、貴重品や水などを備蓄しておこうと思っている。
「この年になって生きる算段をしていると笑われるかもしれないけれど、家の下敷きになり、遺体もなかなか見つからないのはイヤ。身近においておくだけで心の支えになります」
千葉県四街道市の会社員染谷敬三さん(36)の場合は、小3と1歳の子どものために注文した。小さな子ども連れでは、遠くに避難できないかもしれない。「黄色の丸い外観も夢があり、普段は子どもの遊び場にしたい」と話す。
田中社長は予想外の反響に驚きつつ、購入希望者の真剣さに背中を押されて作業を急ぐ。「震災後、何とか家族の命だけでも守る方法はないかと、誰もが模索している。現代のノアの方舟にしたい」。問い合わせは同社(0463・23・2211)へ。(足立朋子)