2011年11月29日10時53分
本が売れない時代だ。かつて街中にいくつもあった書店が次々と姿を消していく。何とかしようと、まちの本屋さんの挑戦は続く。
■書斎りーぶる
福岡・天神で9月にオープンした書店「書斎りーぶる」。運営する菊竹金文堂(福岡県久留米市)は創業150年の老舗だ。6代目社長の都渡正道さん(64)は「この店には、うちの将来がかかっている」と話す。
金文堂はスーパー、ダイエーが運営する天神の商業施設「ショッパーズ福岡専門店街」で40年前から書店を経営していた。ショッパーズが今年7月に閉店することになり、都渡さんは悩んだ。
〈同じダイエー系の商業施設にテナントとして入れてもらうか、単独で新しいところに店を出すか――〉
1970年代後半、金文堂は主にダイエーの店舗内で14店を展開していたが、次々と店をたたんでいった。気がつけば、久留米市の本店以外はショッパーズの店だけに。
店にはこれといった個性がなく、近くに大型店ができると、みるみる売り上げが落ちたためだ。品ぞろえが豊富なインターネット通販書店にも客を奪われた。
悩んだ末、都渡さんは単独で店を出した。「これまでの延長では未来がない」と思ったからだ。
「書斎りーぶる」は午前8時開店で、出勤途中のサラリーマンやOLらでにぎわう。月2回はビジネス雑誌を教材にしたセミナーを開く。出版の仕組みを学びながら自分で本をつくる講座も開催する。
いまは書評サイト「千夜千冊」の執筆者として知られる評論家松岡正剛さんの著作を多くそろえる。本好きの常連客のおすすめの本10冊を1カ月にわたって紹介する棚もつくった。
店の広さは、ショッパーズ時代の3分の1の400平方メートル、本の数も10万冊から3万冊に減ったが、新刊書やベストセラー偏重を改め、地味な本でも世相を反映していると思えば積極的に並べる。
開店3カ月。都渡さんには本好きのリピーターが増えている実感がある。とくに30〜40代の女性客が目立つようになった。ブログやフェイスブックも使い、ふだんはネットで本を買う客も店に呼び込みたいと考えている。
■ブックスキューブリック
福岡市で書店「ブックスキューブリック」を2店舗経営する大井実さん(50)は個性的な店づくりで注目されている。今夏には東京国際ブックフェアで講演し、まちの書店の生き残り策を説いた。
大井さんは10年前、イベントプロデューサーから書店経営に転じた。
福岡市中心部で、商店の軒先に段ボール1箱分の場所を借り一般の人が持ち寄った古本を売る「一箱古本市」を開いたり、作家を招いてトークイベントを開催したりしている。
大型店での売れ行きは振るわなくても、40平方メートルほどのキューブリックではロングセラーになっている本も多い。
大井さんは「データに頼り切るのではなく、本の雰囲気を見て、お客さんが反応してくれそうか顔を思い浮かべて見きわめている」と話す。
最近は、働き方について考える「自分の仕事をつくる」(西村佳哲著)や、随筆集「柿の種」(寺田寅彦著)がよく売れるという。
大井さんは「書店はいい本と読者が出会う場。書店主に必要なのはいい本を見つける目利きの力だ」と指摘する。
■市場は縮小 増える大型店
市場が縮む中、規模を広げたり、個性を磨いたりして書店は生き残りのみちを探る。
出版業界でつくる出版科学研究所によると、2010年の書籍・雑誌の販売額は1兆8748億円。6年連続の減少で、ピークだった1996年の7割になった。
国のまとめでは、この30年ほどで書店の数が3割減った一方、売り場の広さの合計は2・4倍になった。
規模拡大の典型が福岡・天神にあるジュンク堂書店福岡店だ。今秋、大型改装に踏み切って売り場面積を3割増やして6800平方メートルにする。本の数も2割増の140万冊に。新装オープンは12月16日。九州・山口はもちろん、国内でも指折りの大型書店だ。
11月中旬に天神の百貨店、岩田屋に開業したリブロ福岡天神店。以前、岩田屋に入っていたが、書店同士の競争激化などの理由から店を閉め、今回8年ぶりの復活になる。
売り場面積は以前の6割の1100平方メートルに減ったが、家族連れを呼び込むため子ども向けの本をそろえて特色を出す。子どもの本は1万5千冊で、九州・山口で最大級の品ぞろえ。1冊2千〜3千円の贈り物用の絵本も多く並ぶ。
■ひとこと
週刊誌の編集部にいたとき、本づくりを手伝ったことがある。編集者たちは「できあがった本は、自分の子どものようにいとおしい」と言っていた。どの本も、つくり手の熱い思いを背負って世の中に出る。
国内で1年に出る新刊書はおよそ7万点。膨大な本の海のなかからおすすめを紹介するのは、ネット書店のデータベースの得意技のようにも思える。
ただ、本にこめられた思いをくみ取って読者に届ける作業は人にしかできない。まちの本屋さんの挑戦にエールを送りたい。(土屋亮)