裏金事件で失われた信頼の大きさをわかっていないのではないか。抜け道が多く、ザル法とも言われる政治資金規正法の抜本改正には踏み出さず、小手先の対応に終わるようでは、政治の危機はいつまでたっても解消されまい。

 明日の衆院政治改革特別委員会の初開催を前に、自民党がようやく、規正法改正に向けた独自案をまとめた。

 再発防止の観点から、今国会中の実現をめざすものと、その他の検討項目の2段階からなる。政治資金の流れをガラス張りにする思い切った改革を、時間切れで先送りする思惑があるのではないか。

 今回の事件では、会計責任者任せで、議員本人が「知らぬ存ぜぬ」を決め込む場面が多かった。言い逃れができないよう、政治家の責任の厳格化と罰則の強化を最優先に掲げたのは当然だ。

 まず、政治資金収支報告書の提出に際し、適正に作成されたという、議員本人による「確認書」の交付を義務付ける。そして、会計責任者が不記載・虚偽記載で処罰された場合、その確認が不十分であれば、議員にも刑罰を科し、公民権を停止するという。

 候補者と一定の関係にある者が悪質な選挙違反をした場合、候補者の当選が無効とされ、5年間の立候補制限が科される公職選挙法の連座制とは異なり、「確認」に問題があったことが要件になっている。本当に議員本人の責任を問いやすくなるのか、実効性に大いに疑問がある。

 不記載収入の没収や外部監査の強化、収支報告書のオンライン提出の義務化などは、一歩前進ではある。ただ、再発防止策以外は、検討項目を列挙しただけで、「各党各会派との真摯(しんし)な協議」に委ねるというのだから、やる気は全く感じられない。

 国会議員に月100万円支給される調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の使途公開については、岸田首相が議論の再開を指示した。

 だが、政策活動費の透明化やパーティー券購入者の公開基準額の引き下げ、「国会議員関係政治団体」から支出の公開基準が緩い政治団体への資金移動の制限には踏み込んでいない。企業・団体献金の見直しは、項目にすらあがっていない。

 自民党案の提示を受け、公明党との間で、与党案づくりの協議が本格化する。公明党は「連座制」や政策活動費の使途公開などを盛り込んだ、規正法改正案の要綱案を公表済みだ。安易な妥協を排し、国民の信頼回復につながる抜本改革に向け、自民党を説得する役割が問われる。