何を語り、何を聞く 衆院選公示

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 衆院選が19日、公示された。立候補が相次ぎ混沌(こんとん)とする選挙区、与野党対決の構図が鮮明になった選挙区。列島の各地で候補者が第一声を上げた。コロナ下で迎える初の全国規模の選挙で、有権者はこの選挙で何を争点ととらえ、どんな思いを託すのか。(候補者の年齢は投開票日現在)

 ■自民、唯一2人推薦・野党も複数 東京15区、7人が届け出

 下町と臨海都市を抱える東京15区(東京都江東区)。無所属前職の柿沢未途氏(50)、無所属元職の今村洋史氏(59)の自民から推薦を受ける2人のほか、立憲元職の井戸まさえ氏(55)、維新新顔の金沢結衣氏(31)ら計7人が立候補を届け出た。全国289の選挙区で、自民党本部が唯一、2人の候補に推薦を出した選挙区で、党本部は当選した方を追加公認するとみられる。

 前回、自民で当選した前職の秋元司氏(49)が統合型リゾート施設(IR)事業を巡る贈収賄事件で有罪判決=控訴中=を受け、東京15区の構図は公示直前まで揺れ続けた。秋元氏は判決後も、無罪を訴え、無所属での出馬を表明し、地元で選挙準備を続けてきた。だが、公示前日の18日、出馬見送りを表明した。

 「1人が当選する小選挙区で2人が自民党の推薦候補として擁立されている。この時点で大変厳しい選挙。私にとって必要なのは皆さんのお力です」

 柿沢氏は19日午前、江東区の富岡八幡宮で「第一声」を上げた。

 みんなの党や民進党などを渡り歩き、過去3回、秋元氏と議席を争ってきた。前回は秋元氏に敗れ、希望の党(当時)で比例復活当選。今回は、秋元氏が離党して生じた自民の「空白」を狙い、自民に接近した。

 今月4日の国会での首相指名で柿沢氏は「岸田文雄」と書き、所属した「立憲・無所属」の会派は離脱。今回、当選したら自民党入りを公言する。

 巻き返しを図るのが、もう一人の「自民推薦」の無所属元職の今村氏だ。

 医師の今村氏は19日朝、白衣をまとい、江東区役所前から選挙カーに乗り込んだ。「新型コロナワクチンだけでなく治療薬との二本立てでいかなければ抑制できない。医師として政治家として活動していく」

 今回の衆院選を前に、今村氏は愛知県内での立候補を模索していた。過去の選挙で柿沢氏と激しく対立してきた自民の区議や都議らが擁立に動き、自民都連は今村氏で公認を申請。だが、党本部は「推薦」どまりだった。陣営関係者は、「岸田さんは『聞く力』をアピールするが、党本部は地元の思いを聞きもしなかった」と批判する。

 当初、共産も候補者を擁立する予定だったが、公示の約1週間前に共闘が成立し、立憲の井戸氏に一本化を決めた。井戸氏は19日朝、「野党が一つになり、自公政権でよどんだ政治に戦いを挑む。政権が変わらないと国民の暮らしは変わらない」と政権交代の必要性を訴えた。

 維新新顔の金沢氏は事務所前で、「コロナ禍で非正規雇用の女性が苦しみ、命を絶つ人も増えた。女性が活躍でき、がんばっている人が報われる社会にしたい」と訴えた。

 このほか、日本第一党党首の新顔桜井誠氏(49)、いずれも無所属新顔の猪野隆氏(56)、吉田浩司氏(61)が立候補を届け出た。斉藤佑介

 ■「乱」経て、急ピッチで共闘実現 東京8区

 れいわ新選組代表の山本太郎氏の突然の出馬表明に野党共闘が揺らいだ東京8区。自民前職の石原伸晃氏(64)、立憲新顔の吉田晴美氏(49)、維新新顔の笠谷圭司氏(41)の3氏が届け出た。山本代表は比例東京ブロックに単独で立ち、共産も候補者を取り下げて、野党共闘は成立した。

 「野党統一候補としてスタートラインに立たせていただいた」。吉田氏は東京・阿佐谷で第一声をあげ、支援者らの前で深くおじぎし、立候補を取り下げた他党への感謝を述べた。

 共産が立候補を取り下げたのは公示4日前だった。共産都議は「『山本太郎の乱』がなかったら、一本化は難しかったかもしれない」と話す。山本代表の今月8日の出馬表明以降、吉田氏の支援者らが連日、抗議集会を開き、山本代表は3日後に撤回。にわかに野党共闘を占う注目区となり、一本化への調整が急ピッチで進んだ。出馬を見送った共産の予定者は「大義に立って決断した」と語る。

 一方、党幹事長など要職を歴任してきた自民前職の石原氏の陣営は「自民を中心とする与党連立政権か、共産と手を組んだ野党連合かを問う重要な選挙」と位置づけ、これまでの実績を訴えていく方針だ。19日午後0時半から杉並区役所そばで第一声をあげる。

 維新の笠谷氏は午前10時、JR阿佐ケ谷駅頭に立ち、「ほか2候補のような知名度はないが、マイク一本で戦えることを示していく。自民を外から変えていく」と訴えた。井上恵一朗

 ■女性候補、三者三様の歩み 山梨2区

 山梨2区では、主要政党から女性候補3人が届け出た。背景の異なる候補が、政策を競う。

 立憲新顔の市来伴子氏(44)は東京都杉並区議を経て、2019年の参院選山梨選挙区で立憲の候補者に。第一声で「貧困と格差を解消し、生活に希望を取り戻したい。政治に信頼を取り戻したい」と訴えた。

 共産新顔の大久保令子氏(71)は、大学在学中に共産党入りし党職員として半世紀近く歩んできた。前回に続く衆院選への立候補で、党が重要政策に「ジェンダー平等」を掲げたことを強調する。

 ワクチン担当相の自民前職の堀内詔子氏(56)は、義父の故・堀内光雄通産相の後継として12年に初当選。第一声で「ワクチンを打っていただき、病床確保などで感染を最小限に抑えていきたい」と訴えた。(吉沢龍彦)

 ■まとまる自民、分かつ野党 群馬1区

 自民の公認争いが公示4日前までもつれた群馬1区。党本部は前回、比例単独で初当選した二階派の中曽根康隆氏(39)を公認し、前回1区で当選し、安倍晋三元首相の出身派閥・細田派の尾身朝子氏(60)を比例に回し「選挙区の現職優先」の原則を覆して「保守分裂」を回避した。

 康隆氏は中曽根康弘元首相の孫で、父は元外相で参院議員の弘文氏。康隆氏は19日午前、前橋市内で「みなさんの声と思いを、責任をもって国会に届ける」と第一声を上げた。

 一方、野党の足並みは乱れた。立憲県連が公募した新顔の斉藤敦子氏(53)は党本部が公認を認めず、無所属で立候補し、県連が支援する。旧民主元職の宮崎岳志氏(51)は今回、維新から出馬し、共産も新顔の店橋世津子氏(60)を擁立した。地元の市民団体が「野党共闘」を呼びかけたが、実現しなかった。(松田果穂)

 ■銀座の夜を反省、謝罪から 神奈川1区、奈良3区

 緊急事態宣言下の今年1月、銀座のクラブを訪れたことが問題視され、自民を離党した松本純氏(71)は無所属で神奈川1区から立候補した。自民は神奈川県内で唯一、1区には公認候補を立てず、地元の自民県議や市議らが支援する。

 松本氏は19日、横浜市金沢区での第一声で「みなさんが我慢を強いられている時期に軽率な行動でがっかりさせ、怒らせてしまった」と謝罪。「厳しい戦いは百も承知だが、いま一度チャンスを与えて頂きたい」と訴えた。神奈川1区には他に維新新顔の浅川義治氏(53)、立憲前職の篠原豪氏(46)が立候補を届け出た。

 同様に銀座のクラブを訪れて自民を離党した田野瀬太道氏(47)も無所属で奈良3区から立候補。奈良3区には他に共産新顔の西川正克氏(63)、無所属新顔の高見省次氏(61)、N党新顔の加藤孝氏(43)が立候補を届け出ている。(足立優心、鎌田悠)

 ■コロナ禍、負担増した

 東京都江戸川区認可保育所の園長、的場聡美さん(36)は「保育現場に『ゆとり』を」と訴える。長男を出産した12年前と比べ、保育現場の働き方の見直しが進み、保育士の出産後の離職は減ったと感じる。それでも保育士不足は続く。

 待機児童対策で施設は増えた一方で、個々の子どもに合わせたきめ細かな保育や保育士育成に力を入れるには、まだ人的に余裕がある施設は少なく、コロナ禍で業務の負担や精神的な不安は増したと感じる。「保育の質を高めるには、保育士の職場環境や一人ひとりの心のゆとりが必要」小林直子

 ■就職、決まったけれど

 「オンラインばかりで、会社も見に行けていないんです」。名古屋市守山区に住む中部大学4年生、芝高亜実さん(21)は、メーカーに就職が決まった。しかし、不安は消えない。

 「アフターコロナ」はどうなるのか。テレワークが定着すれば、人と会わずに自分で仕事を進めなければならず、結果が重視されそうに思える。「そんな社会で生き残れるのかな」

 生活が苦しくて子どもをあきらめた夫婦の記事をインターネットで読み、ひとごととは思えなかった。「どんな未来になるのか。それを聞かせてほしい」(土井良典)

 ■表現の自由、脅かすな

 性的少数者や被差別部落出身者らにカメラを向けてきた映画監督の田中幸夫さん(69)=兵庫県芦屋市=は「隠さない 飾らない 構えない」を掲げた。「与党にも野党にもそんな候補者はいるのか」。田中さんの思いを映す反語だ。

 新型コロナ下、支援策として与野党が現金給付を公約に掲げるのを冷ややかに見つめる。「票ほしさ見え見えのばらまき。財源をどうするのか説明できる政党、候補者は誰もいない」

 表現者として田中さんが最も大事にしたいのは「表現の自由」。脅かされるようなことがあってはならないと願う。(小若理恵)

 ■被災地で、本気度問う

 2016年4月の熊本地震で2度の震度7の揺れに見舞われた熊本県益城(ましき)町。全壊した自宅を修理して暮らす萱野(かやの)保代さん(75)は時間とともに被災地への関心が薄れ、復興の歩みも停滞してきていると感じる。

 地域全体の合意を得て区画整理事業を進めてほしいと願うが、住民説明会は事業の開始前後に数回開かれただけ。地震直後に相次いで視察に訪れた閣僚や国会議員の姿も見えない。

 今回の選挙では、被災地の復興への取り組みの本気度を問いたいと思う。「口先だけの進まない『復興』はいらんとです」(藤原慎一)

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