(フォーラム)頼むよ、菅内閣:2 子育て

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 若い人たちが将来も安心できる全世代型社会保障制度を構築したい――。菅義偉首相は就任会見でこう述べ、不妊治療への保険適用や待機児童の解消に取り組む考えを示しました。一方、子育てする立場で考えると、どんな支援があれば「安心できる」のでしょうか。アンケートでは、子育てや教育にかかる費用を心配する声が多く寄せられました。

 ■学費高い/偏り解消を

 デジタルアンケートに寄せられた声の一部を紹介します。

 ●仕事か子どもか二者択一、今も

 非正規の大学教員です。第2子の妊活は前途多難です。授かることができても、任期終了後も働ける見込みが立たないのでフルタイムの仕事はしばらくあきらめなければならないし、前回切迫早産だったので妊娠中は働けません。仕事を取るか、愛する子どもを取るか、二者択一の世の中はおかしい。(東京都・30代女性)

 ●子どもの学費に年250万円

 教育費が高い。シングルマザーですが、2人の子どもは年子で私立の大学に通っています。2人合わせて毎年250万円払います。正規雇用なのでなんとか貯金を崩し、奨学金ももらっていますが、この出費はパートや低賃金の仕事では払えません。子どもに罪はないので、どの子も安心して進学を目指せる社会になってほしいです。(大阪府・50代女性)

 ●保育園見つからず育休延長

 横浜市で0歳児を育てていますが、保育園のキャパが足りず、子どもを預けることができず困っています。やむを得ず職場に申請し、育休を延長しました。市の制度上、育休を延長できた場合、「保留児童」とされ、「待機児童」とさえカウントされないこともあり、たくさんの隠れ待機児童がいることが国に認知されません。(神奈川県・30代女性)

 ●家事、育児は女性のまま

 不妊治療の保険適用だけでは根本的な解決にならない。女性の8割近くが就労しているのに家事や育児は女性の肩に載ったままだ。一時的な費用を支給するのは根本的解決に至らない。子育てや家事をパートナーとわかちあう意識や社会を目指す姿勢が国のリーダーに不可欠なのに。(兵庫県・50代女性)

 ●父親も当たり前に産育休を

 今一人っ子を育てている母親です。ちゃんとした保育園に必ず入れる保証があり、仕事が続けられ、教育費について心配がなく、父親もあたり前に産休育休をとれるようになれば、2人目がほしいと思います。(東京都・30代女性)

 ●妻は育休、夫は非正規で仕事激減

 1歳の子どもがおり、私は育休中です。非正規雇用の夫の仕事が激減し、家計への影響が大きく出ています。(愛知県・30代女性)

 ●働き過ぎ、子どもとの時間は

 コロナの影響で在宅勤務となった際、子どもと一緒に過ごす時間が増え、子の情緒が安定していくのを感じた。将来の教育費の負担を考えると、しっかり貯蓄するために働かなければならないというジレンマがある。教育費の負担軽減はゆとりある生活につながるのではないか。(京都府・40代男性)

 ●子どもは2人が現実的

 子育てにお金がかかりすぎる。3人も育てられない、という話は周囲でもよく聞く。共働きで共に正社員だが、持ち家はなく、子どもは2人が現実的だと判断した。(東京都・40代女性)

 ●不妊治療の負担軽減を

 20代から不妊治療関連で通院しました。ただでさえ不妊は精神的苦痛が大きいですが、その上、治療費は超高額、通院回数も多く急な通院も必要なため、仕事を休みづらいなどの理由で高度生殖医療を開始するのに遠回りしました。現在、1児の母となることができました。治療にかかったお金は子どものこれからにかけてあげたかったし、もっと早く治療できていればもう1人出産できていたかもしれないと後悔しています。不妊治療の保険適用を進めていただきたいです。(福岡県・30代女性)

 ●児童扶養手当の対象外でも苦労

 ひとり親です。児童扶養手当は停止されていますが、コロナで収入が半分以下に。今の収入で今年の児童扶養手当を審査してくれない政府の残酷さに落胆しています。ひとり親世帯への臨時特別給付金の持続を願います。(東京都・40代女性)

 ●保育士の給与を上げて

 8時間労働の保育士です。施設に給付金を払われても、保育士に還元されていない実態がある。保育士の仕事は子どもの命を守ること、健全な育成です。あまりにも責任が重い業務内容なのに賃金は安過ぎます。誰にでもできる仕事ではありません。(新潟県・30代女性)

 ●子どもが自由に遊ぶ環境を

 4歳の息子の母親です。コロナ禍で子どもの遊ぶ場所は限られ、夏祭り、遠足、運動会、すべての行事はなくなりました。子どもは親の様子をみて「コロナだからしょうがないね」と言っています。我慢させることしかできないのでしょうか。日本社会の中で数は少ないけれど、次代を担う大切な世代。もっと子どもの心、身体のサポートが必要だと思います。(東京都・30代女性)

 ■少子化、積み残す課題 ひとり親支援・待機児童・男性の育休

 子育て支援は第2次安倍政権でも重要課題の一つに掲げられ、2017年の衆院選では少子化が「国難」とまで宣言されました。

 実際、出生数は減少する一方です。親になりうる世代の減少や晩婚、晩産化を背景に、1年間に国内で生まれた日本人の子どもは16年に初めて100万人を割り、昨年は86万5239人と統計がある1899年以降で最少となりました。1人の女性が生涯に産むと見込まれる子どもの数を示す「合計特殊出生率」も1.36で、人口維持に必要とされる2.07を0.71ポイント下回っています。

 一方、15年の出生動向基本調査では、夫婦の「理想的な子どもの数」は2.32人で、理想と現実にギャップがあることがうかがえます。

 理想の子どもの数を持たない理由として最も多いのは「子育てや教育にお金がかかりすぎる」で56.3%。「高年齢で生むのはいやだから」(39.8%)、「欲しいけれどもできないから」(23.5%)と続きます。身体的、年齢的な理由よりも経済的な負担感が上回ります。特にひとり親世帯は貧困状態に陥りやすく、18年のひとり親世帯の子どもの貧困率は48.1%。ひとり親世帯に限らなくても、子どもの約7人に1人にあたる13.5%が貧困状態にあるとされます。

 課題も積み残しています。政府は今年度末までの待機児童ゼロを目標に掲げていましたが、今年4月時点で約1万2千人。安倍政権下で半減したものの、「特定の園のみ希望した」などの理由で待機児童に含まれない「隠れ待機児童」は全国で約8万5千人にのぼります。

 男性の育児参加も進んでいません。厚生労働省の昨年度の調査では、男性の育児休業取得率は7.48%。過去最高になったものの、政府目標の「25年に30%」にはほど遠い数字です。

 政府が25年までの指針とする「少子化社会対策大綱」では、若者の正社員転換や非正規雇用者の処遇改善などを掲げています。財源確保も含め、実現するための具体的な道筋を示すことが求められます。

 ■収入不安「2人目は無理」

 「2人目を考えるならそろそろかなと思うけど、我が家の収入では考えられない。息子の学費を捻出するので精いっぱい」。福岡市の女性(36)は、長男(4)の今後の教育費に気をもんでいます。

 今は週3日、夫(34)の扶養の範囲内でパートで働き、夫婦合わせた月の手取りは28万円ほど。フルタイムで働くことも考えていますが、息子が小学生になった時に学童保育を利用できるのかどうか、不安に感じるといいます。

 さらに、夫は高校から専門学校にかけて奨学金を借りたため、今後10年ほどは月2万円の返済も重なり「ダブルで学費を取られているような状態」です。

 理想を言えばあと1人子どもがほしいけれど、進学のための塾代や、高校や大学で私立を希望した場合の学費など、子どもの「学びたい」という意思を金銭的に後押ししてあげたいと思うと「2人分は無理」。学力があっても、親の収入に教育の質が左右されてしまう現状にも疑問を感じています。「せめて中学、高校の制服代や教材費など、学校生活で必ず使うものの費用負担が軽くなれば」と話します。

 地方の大学で任期付き研究員として働く40代のシングルマザーは、今の役職に就いた昨年まで、アルバイトで家計を支えてきました。研究と子育てのかたわらバイトに割ける時間は1日6時間ほどで、「子どもに十分な教育の機会を与え続けていけるか、という不安が常につきまとった」と話します。

 子どもの声や足音を嫌い、家賃の安い単身者向けのアパートへの入居を拒まれたり、大学院に通っていたことを理由に低所得のひとり親向けの手当の支給を断られそうになったり。「いわゆる『一般的な家族像』に当てはまらないとみなされると、支援を受けることが難しい」と感じたといいます。

 女性は「家族のあり方は様々。どんな生き方を選んでも、安心して子育てができる世の中になってほしい」と訴えています。伊藤舞虹

 ■教育支援、コスパのいい投資 NPO法人「キッズドア」・渡辺由美子理事長

 キッズドアでは、2010年から貧困家庭の子どもたちへの学習支援を行っています。昨年度は小学生から高校生まで1960人が学習会に参加しました。

 日本では親の経済力が子どもの教育環境に大きく影響します。所得が少ない家庭にたまたま生まれると、十分な教育の機会を得られない。低学歴になって安定した仕事にも就けず、貧困になってしまう。そうした貧困の連鎖を断ち切りたいという思いで始めました。

 学習会に来る子どもたちは本当に厳しい状況に置かれています。ひとり親の家庭が多いですが、親の仕事は非正規が多いので、ダブルワークやトリプルワークになる。そうすると家で子どもの勉強を見てあげることはできない。満足に食事を取れないという家庭も多いです。

 この10年ほどで国の政策もずいぶん進みました。子どもの貧困対策法もできましたし、大学の授業料の減免や給付型奨学金を受けられる制度も今年度からできました。政府が貧困対策を「投資」とかじを切ったのは評価できる点です。

 ただ、根本的なところでお金がない状況は変わっていません。例えば、児童手当は中学卒業まで。高校に進学しても親が扶養していることに変わりはありません。親が低所得で、バイトをしないと通学定期を買えない、お昼ごはんを食べられないという子どもがたくさんいます。勉強も十分にできず、中退せざるを得ない生徒もいます。児童手当は早期に高校卒業まで延長すべきです。

 一方で、中間層への支援が手薄になることも問題です。そうした家庭の子も支援を失えば貧困に陥るおそれがあります。

 子どもを生まないのは、子育てにお金がかかりすぎるから。安心して子育てができるよう、直接的な給付を増やすなど改善が必要です。どんな家庭に生まれても十分な教育を受けられれば、将来稼げるようになり、それは高齢世代を支えることにつながります。日本の大きな問題である少子高齢化に、こんなコストパフォーマンスのいい投資はなかなかないと思います。(聞き手・有近隆史

 ◇政府は昨年10月から幼児教育・保育無償化や低所得世帯の子どもの高等教育無償化に取り組んできました。子育て世代の経済的負担を和らげるための施策ですが、アンケートからは特に教育費の確保に不安を感じる読者が依然多いと感じました。菅義偉首相は就任早々、不妊治療への保険適用を「実現する」と言い切りました。もちろんそれも大事ですが、子どもは産んだら終わりではありません。巣立つまでの長い期間を支えるには、国の政策に加え、長時間労働や雇用、地域との関わりなど、企業や地域も巻き込んだ改革が急務です。特定の時期だけに「一点突破」で焦点を当てるのではなく、子育てにかかる費用やニーズを洗い出し、どのように切れ目なく支えていくのか、首相の包括的なビジョンをまず示すべきだと思います。伊藤舞虹

 ◇来週11日も「頼むよ、菅内閣」を掲載します。

 ◇畑山敦子も担当しました。デジタルアンケート「不妊治療の保険適用、どう思いますか?」をhttps://www.asahi.com/opinion/forum/で実施中です。

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