(社説)中東有志連合 参加ありきは道を誤る

社説

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 同盟国の求めだからといって、日本が果たすべき役割を取り違えてはならない。

 初来日したエスパー米国防長官が、岩屋防衛相と会談し、中東のホルムズ海峡などで船舶の安全を確保する「有志連合」構想への参加を要請した。

 岩屋氏は原油の安定供給の確保、米国との関係、イランとの友好関係を挙げ、「さまざまな角度から検討し、政府全体として総合的に判断したい」との考えを伝えた。

 政府内では、イランを刺激しないよう、新たな部隊を派遣するのではなく、ソマリア沖で海賊対策にあたっている海上自衛隊護衛艦哨戒機を、ペルシャ湾外のオマーン湾に回す案が検討されているという。

 法的な根拠としては、海賊対処法自衛隊法海上警備行動が考えられているが、いずれも派遣を実現するための無理やりの算段にみえる。

 冷徹な情勢分析や利害得失の計算より、「何もしないわけにはいかない」という受け身の判断を優先していては、道を誤ると言わざるを得ない。

 どのような形であれ、米国の要求に応じて自衛隊を派遣すれば、イランからは日本も包囲網に加わったとみられ、関係悪化は避けられまい。

 そうなれば、米国の同盟国でありながら、イランとも長年の友好関係を保ってきた日本の外交的資産を無にすることになりかねない。

 安倍首相は6月のテヘラン訪問に続き、9月の国連総会の機会に、ロハニ大統領との再会談を調整中だ。米国とイランの間に立って、双方に緊張緩和を働きかけることができる貴重な立場を失うことは、関係国すべてにとってマイナスでしかない。

 米国の考える有志連合の具体像はいまだ定まっていない。米国は3度の説明会を開いたが、正式に参加を表明した主要国は英国くらいで、イラン核合意を支持するドイツは参加見送りを決めている。

 日本も核合意を支持し、一方的に離脱したトランプ政権とは一線を画している。中東からの原油の輸入に依存する日本にとって、この海域の安全が極めて重要なことはいうまでもないが、そのために有効な策は何か、冷静に考える必要がある。

 集団的自衛権の一部行使に道を開いた安全保障関連法の国会論戦で、時に誤った戦争に踏み出す米国の要請を日本が断れるのかも焦点となった。

 首相は「主体的に判断する」と答弁した。同盟国の求めといえど、日本の立場と国際社会全体の利益を考え、是々非々で対応する。そんな日本の「主体性」が問われる局面だ。

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