参院選沖縄選挙区(改選数1)は、自民公認候補と、玉城デニー・沖縄県知事を支える「オール沖縄」勢力が推す候補の対決が軸だ。米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設計画で、安倍政権と県との対立が続く中での選挙戦。だが「辺野古」をめぐって自民側が迷走。議論は深まらない。

 「政府の代弁者になるつもりはない。沖縄の声を届けていく」。自民新顔の安里繁信氏(49)は10日夜、那覇市での総決起大会で、自民の国会議員や仲井真弘多・元知事、公明の支持者ら数千人を前に声を張り上げた。そして、辺野古移設には触れなかった。舞台の袖で聞いていた自民県連幹部は「彼は辺野古をめぐり、保守層の信用を失ってしまった」と嘆いた。

 6月下旬の政策発表会見で、安里氏は辺野古移設について「口が裂けても容認とは言えない」と明言した。辺野古沿岸部の埋め立てに「反対」が7割を超えた2月の県民投票を挙げ「結果を重く受け止めなければならない」と主張。選対幹部は無党派層を取り込むための戦略と説明する。

 だが、自民県連は辺野古容認の立場。4月の衆院沖縄3区補選で公認候補が「容認」を明言して戦い、「辺野古容認の訴えが、今後の選挙戦での最低ライン」というのが県連幹部の共通認識だ。県連関係者によると、安里氏とは「辺野古移設はやむを得ない」ということで一致したはずだった。県連には「自民と考え方が違うじゃないか」という批判が寄せられている。

 これまで自民公認候補を支持してきたという辺野古の商工社交業組合理事の玉利朝輝(ともてる)氏(60)は、安里氏の発言に反発して立候補。「反対に対抗するには賛成と言わなければならない」と「辺野古移設推進」を訴えている。

 公示以来各地を飛び回る安倍晋三首相と菅義偉官房長官が、沖縄を訪れる予定もない。報道各社の情勢調査では他候補の優勢が伝えられる。首相周辺は「首相が行って勝てる可能性がある所に行くべきだ」。自民県連が総決起大会への出席を要請した二階俊博幹事長は、ビデオメッセージになった。

 県連の元幹部は「辺野古問題で保守の迷走はいつまで続くのか」と嘆く。

 県連幹部は、党幹部に「いつになったら沖縄は選挙で勝てるんだ」と言われ、腹の中でつぶやいた。「辺野古が完成するまで勝てません」

 ■オール沖縄「勝つしかない」

 無所属新顔の高良鉄美氏(65)は、辺野古移設反対を前面に掲げる。街頭や集会での訴えでは辺野古に必ず触れ「民意を無視した強行に対して、もっと強い民意をぶつけよう」と訴え、玉城知事を国政から支えるとアピールする。

 玉城知事も何度も応援演説に立つ。12日には那覇市でマイクを握り「ウチナーンチュ(沖縄の人)が平和の議席をあきらめることは絶対にない。そのことを確かめる意味でも、ぜひとも勝たなくてはならない」と声を上げた。

 オール沖縄側は昨年9月の知事選、4月の衆院補選で勝利。2月の県民投票でも埋め立て「反対」が7割を超えた。こうした「民意」が、移設反対を訴える玉城県政の支えだ。

 ただ、いくら選挙で民意を示しても、工事を止められない状況が続く。選対幹部は言う。「もし選挙で負ければ、運動自体が崩壊する。いつも崖っぷち。勝ち続けるしかない」(伊藤和行、岡田将平)

 ■民意、耳貸さぬ政権

 「沖縄県民の気持ちに寄り添う」。事あるごとにそう繰り返してきた首相だが、街頭演説で「普天間」「辺野古」に触れることはない。政権は知事選、県民投票、衆院沖縄3区補選での民意を無視したまま、辺野古の埋め立てを続ける。

 昨年12月以降キャンプ・シュワブ南西側で、護岸で囲った6・3ヘクタールと33ヘクタールの2区域の2割弱を埋め立てた。ただ県の試算では、使われた土砂の量は5月末時点で全体の2・8%だ。

 玉城知事は、辺野古移設の中止と対話による解決を訴えている。

 今後の焦点は、シュワブ北東側にある軟弱地盤の改良工事と、県が国を相手取る訴訟の行方だ。地盤改良には、政府が県に設計計画の変更を申請し、承認を得る必要がある。政府は年内にも申請する意向だが、玉城知事は認めない構えだ。

 県は、行政事件訴訟法に基づいて国交相の裁決の取り消しを求める「抗告訴訟」も起こす意向だ。(松山尚幹、藤原慎一)

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 安里繁信 49 自新 〈元〉JC会頭〈公〉

 高良鉄美 65 無新 琉球大名誉教授

 磯山秀夫 72 諸新 N国党員

 玉利朝輝 60 無新 商工会理事

 (届け出順。敬称略。年齢は投票日現在。〈 〉内政党は推薦)