(社説)原発耐震対策 最新知見を早く生かせ

社説

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 原発の安全対策は、最新の科学的な知見に基づいていなければならない。この大原則にのっとった当然の手続きである。

 原子力規制委員会の検討チームが、原発の耐震対策に欠かせない計算方法の見直し案をまとめた。近く正式決定し、電力各社に指示を出す。

 今回の見直しは、再稼働したものを含め、新規制基準を満たした原発にも適用される。最新の知見をもとに規制が見直された場合、既存の原発にも対策を義務づける「バックフィット制度」に基づくものだ。

 福島の事故を繰り返してはならない、という反省が制度の原点である。電力各社は適切に対応しなければならない。

 全国の原発の耐震対策は、想定される最大の地震の揺れが前提となっている。これを基準地震動といい、原発ごとに(1)海溝型地震や原発周辺の活断層による地震(2)全国どこでも起こりうる「震源を特定できない地震」を想定して定めている。

 今回、検討チームが見直したのは(2)の揺れの計算方法だ。現在の方法は過去1回の地震データしか生かしておらず、事例を増やして計算の信頼度を上げることが懸案となっていた。

 新たな計算方法は、00~17年に起きた89回の地震の観測記録を分析してまとめた。今後、電力各社は地盤の状況などを加味し、原発ごとに基準地震動を計算し直すことになる。

 再計算の結果、耐震性が不足していると評価されれば、対策工事の追加が必要だ。すでに運転中の5原発では、九州電力川内原発鹿児島県)や玄海原発佐賀県)、四国電力伊方原発愛媛県)などに影響する可能性がある。

 これまでも新たな知見に応じて見直された規制が、バックフィット制度によって全国の原発の安全対策に反映されてきた。火災や火山噴火、警報なしの津波など案件は10例を超える。

 規制委は、対策が終わるまで運転停止を命じることもできるが、実際に止めた例はない。影響の大小や追加工事の時間などをもとに猶予期間を設け、運転の継続を認めてきたのだ。

 原発を止めたくない事業者にとって、猶予期間は長いほど都合がいい。たとえば4月、航空機テロ対策の追加工事が遅れたため、電力会社は5年間の猶予期間を延ばすよう求めた。

 この要望を規制委は却下し、来年の春以降、工事が終わっていない原発は止まる。運転継続ありきで、安全がおろそかになっては困る。今後も規制委は猶予期間を必要最小限にとどめ、厳格に運用するべきだ。

 自然災害やテロは、対策が整うのを待ってはくれない。

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