(社説)対イラン圧力 危機回避へ米は自制を

社説

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 中東の主要国イランに対する米国の「脅し」が止まらない。軍事の圧力と経済制裁の乱発が緊張を高めており、いまや一触即発の危うい淵にある。

 トランプ米政権は、無分別な「あおり戦術」をただちに停止し、真剣な対話に臨むべきだ。もし武力衝突に陥れば、戦渦の規模は計り知れない。

 先日、米軍最高司令官である大統領が発した言葉は、信じがたいほど軽率だった。イランへの軍事攻撃をいったん命じたが、作戦開始の10分前に中止したと、明らかにしたのだ。

 中止に至る経緯は定かではない。だが、米軍の無人偵察機がイランに撃墜されたあと、ほどなく報復を決めたのは事実らしい。背筋の凍る話である。

 安易な軍事行動がいかに事態を複雑にし、制御を難しくするか、世界史をひもとくまでもない。トランプ氏は「戦争は望まない」と言うが、現実には、いつ偶発的な衝突が起きてもおかしくない状況にある。

 今週は、イランの最高指導者ハメネイ師らに対し新たな制裁を発表した。その直前には前提条件なしに交渉する意思を示していた。硬軟両様の駆け引きで譲歩を引きだす狙いらしい。

 そうした米国の動きを、多くの国々は冷ややかに見ている。そもそも今の不穏な環境を生んだのは米国自身だからだ。イランの核開発をめぐる国際合意から一方的に離脱し、空母や爆撃機などを周辺に展開した。

 最近の日本企業所有のタンカーへの攻撃なども、その流れの中で起きた事件である。米政府はすべてイランの責任だと非難し、国連安保理の会合も開いたが、米国への支持は広がっていない。

 軍事力で危機をあおったうえで対話に転じ、自らの手柄として誇示する。そんな際どい手法は北朝鮮政策でも使ったが、イランを含む中東でどんな作用をもたらすかは不透明だ。

 欧州諸国は危機回避の道筋を探っている。ウィーンで28日から、米国を除くイラン核合意の署名国の高官が集う。イランが自制を保てるように、経済的な支援枠組みを検討する。

 問題の打開へ向けては、米国が背を向けた合意を守ることが出発点だ。中東問題にとどまらず、通商、地球温暖化など、さまざまな問題で米国抜きの多国間枠組みを維持・強化できるかが、いまの国際社会に求められる課題である。

 その意味で、大阪で開かれるG20首脳会議は多国間協調の決意が問われる場となろう。安倍首相は、トランプ氏との会談で自制を促すとともに、議長として緊張緩和への議論を逃げずに主導すべきだ。

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