(社説)報告書「拒否」 不信あおる政府の逃げ

社説

[PR]

 今の高齢夫婦世帯は平均で、毎月の支出と年金などの収入の差額5万円を資産の取り崩しで賄っており、30年で2千万円が必要になる。そんな数字を示した金融庁審議会の報告書受け取りを、麻生金融相が拒否した問題で、きのう衆院財務金融委員会が開かれた。

 麻生氏は「あたかも公的年金だけでは足りないかのような誤解、不安を与えた。年金は老後の生活の柱という政府のスタンスと違うので受け取らない」との説明を繰り返した。

 受け取らないのだから報告書そのものが存在しない。そんな理屈で、与党は衆参予算委員会の開催にも応じていない。

 だが、報告書を封印すれば国民の不安が消えるわけではない。国会での論戦を避ける姿勢こそが、年金制度への信頼を傷つけていることを、政府・与党は自覚すべきだ。

 たしかに、支出の平均値を生活に必要な額のようにとらえ、収入との差額を、報告書が「不足」「赤字」と表現したのは乱暴だった。その点は政府が丁寧に説明する必要がある。

 ただ、「今後、社会保障給付は低下することから(貯蓄を)取り崩す金額が多くなる」と審議会で指摘したのは、他ならぬ厚生労働省だ。政府もこれまで、私的年金の拡充などの政策を進めてきた。

 「公的年金以外で賄わなければいけない金額がどの程度になるか考えてみることが重要」という報告書の主張は、政府のスタンスと異なるわけではない。

 政府・与党が繰り返す「年金100年安心」は、現役世代の保険料負担に上限を決め、収入の範囲内で年金をやりくりして100年間は給付と負担が均衡するようにしたに過ぎない。人口減少や長寿化が進めば、それだけ給付は抑制される。

 政府は現役世代の手取り収入額の5割という年金水準を約束しているが、これも65歳時点の数字だ。実質的な水準低下はもらい始めてからも続く。

 「十分な年金をもらえるのか」という国民の不安をどう解消するのか。政府は、70歳まで働ける環境の整備や、年金の受給開始を遅らせると年金額を増やせる仕組みの拡充、非正規雇用の人の厚生年金加入を広げることなどを、次の年金改革の柱にする考えだ。

 それでも不十分となれば、所得が低い人のための手立てをさらに考えるのか、現役世代の保険料の上限を見直すのか。

 そうした議論の材料となるのが、5年に1度の年金財政検証だ。前回は6月上旬に公表されたが、今回は遅れている。早く公表し、議論を深めることが、国民の不安に応える第一歩だ。

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

【お得なキャンペーン中】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら